[サイプラススペシャル]16 「精度」を極めた小形旋盤の決定版 小さくてもキラリと光る

長野県岡谷市

エグロ

〝一機入魂〟のNC旋盤づくり
ジャストフィトジャストユアーズ

 回転するろくろに刃物をあて金属などを削る「旋盤」。今も昔も、ものづくりになくてはならない道具だ。
 小型サイズの旋盤づくりに特化するエグロは、コピー機などの感光ドラム用旋盤で世界シェア80%、ハードディスクの心臓部・アルミディスク用の旋盤で国内シェアトップを誇る。
 「ものづくりを支えるものづくり」をひたむきに続ける諏訪の企業・エグロ。そのシンボルが、開発から半世紀たった今も売れ続ける精密小形旋盤の名機「GL-120型」だ。

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名機「GL-120型精密小形旋盤」

半世紀のロングセラー

 高速で回転する金属に刃物が当たり、細かい削りカスを出しながら、美しい円柱に加工されていく。エグロの「GL-120型精密小形旋盤」ならではの仕上がりだ。
 現在の旋盤の主力はコンピューターによるNC・数値制御だが、1960年に誕生したGL-120は手動操作。職人の経験と勘が求められる同機が、今なお年間20台も売れているというのは驚きだ。

ロングヒットの秘密とは?

 GL-120が売れ続けているのには、2つのワケがある。
 「これ1つで、旋盤加工はひと通りなんでもできるんですよ」
江黒照男社長が言うように、「ものづくりの原点」に忠実なマシンであることが第1の理由だ。数値を入力するだけのNC旋盤では身に付かない「ものづくりの基本」が学べるとして工業高校やメーカーの研修などで活用されている。
 今でこそNC旋盤に取って代わられたが、もともとGL-120は、カメラレンズの外装部品の削り出しで活躍していた。江黒社長は「表面がきれいに仕上がるんです」ともうひとつのワケを語ってくれた。

職人のワザが光る!

 「自慢できるのは精度です」と江黒社長。
精度を出すために欠かせないのが「きさげ加工」だ。刃物台が滑らかに動くよう、手作業で理想的な平面に削り上げていく。「この技術はカンタンに身につかない。最低5年はかかります」  肩幅に広げた両足を踏ん張り、超硬工具を金属に押し付ける姿は、さながら旋盤に魂を込める儀式だ。
 仕上げも人の手。完全に密着するよう油膜も考慮して目と手の感触を頼りに削ってゆく。一見、波打った模様のように見える、そこに油がしみ込み、究極の滑らかさが実現する。機械ではできない、文字通りの職人芸だ。

 「きさげ」は現場でベテランから若手に受け継がれてゆく。「最近は、きさげをやらせてください、なんて言ってくる者もいるんです」江黒社長は嬉しそうだ。

名機GL-120は現在も生産中

「魂を込める」きさげ作業

きさげ加工された面。油がしみこみ、旋盤のなめらかな動きを実現する。

「旋盤一筋60余年」のこだわり

「卓上旋盤といえばエグロ」だった時代

 精密機械工場が並ぶ岡谷街道。エグロは、高速道路・岡谷ジャンクションの高架橋を背に本社工場を構える。
 エグロの強みは、旋盤の精度と、小型に特化した「ジャストフィット」の経営理念だ。
 1937年、現社長の父・江黒甚平が旋盤の製造業を東京で始める。太平洋戦争中に下諏訪町に疎開し、県内で盛んになった精密機器メーカー向けにベンチレース=卓上旋盤の販売台数を伸ばす。当時は「エグロ」が卓上旋盤の代名詞になるほど実績を重ねていった。

不況に勝つ突破力は「聞き込み」

 2000年のITバブル崩壊後、最大の危機が訪れた。工作機械は景気の波を受けやすく、利益の出ない年もあった。「私たちのように工作機械だけという会社は少ないんです。でも、ウチはこれ一筋。とにかく『いいものを作るんだ』という気持ちでやってきました」

 江黒社長が取り組んだのは「お客のニーズを拾いまくる」ことだった。
 「営業といっても鍋ややかんを買ってもらうわけじゃない。メーカーで聞き込みを徹底して、わが社にしかできないマシンを作る。お客さまの要望に応えてマイナーチェンジを繰り返しました」現場の声を集めることで、前出のハードディスクや感光ドラム専用の旋盤を誕生させた。

小さなものは小さなマシンで

 「最近のニーズは、小さなものの微細加工ですね。ここに市場があるんじゃないかとにらんでいます」江黒社長は意欲を見せる。
 製品の高性能化に伴って部品は小型化する。小さな部品の加工を大きな機械でやっていたら無駄が多い。「だから小さなサイズで」というのが、エグロのジャストフィットの発想だ。

 小さな部品は小さなマシンで加工する。小さいからといって機能を減らすわけにはいかない。エグロは打ち出した新しいカタチ、そのひとつが「超精密」と「5軸加工」だった。

「一機入魂」バッチを胸につける江黒照男社長

エグロ製マシンで加工される製品

一台一台、丁寧に組み立て・検査が行われている


新しい伝統の創造

超精密への挑戦

 エグロの戦略は「ニッチ(すきま)市場のシェアを取る」。
大量生産の汎用機でなく、顧客のニーズに対応した旋盤をひたすら作り続けるエグロは、小形旋盤にいち早くNC・数値制御を取り入れた先駆者でもある。旋盤の精度を支える「きさげ」加工とあわせ、NC旋盤の制御技術も「自信の持てる分野」だという。

 「微細精密複合加工」の代表選手は、精度と制御の技術を結集した「100-Nano」。その名前が示すとおり、誤差をナノメートル=1億分の1メートルの単位に収めて、金属を削り上げていくマシンだ。限りなく高い精度を実現するためには、小さなほこりやゴミを排除するのはもちろん、温度管理まで必要だ。完成品の試運転も、温度管理されたクリーンルームで行われていた。
 「必要とするユーザーはそう多くないが、絶対にいる」と江黒社長が強調するように、そこには求められるものの半歩先をいく技術開発陣の姿があった。

5軸であらゆるカタチを削りだす

 回転する金属に刃物をあてるだけの旋盤では、複雑な削りだしは難しい。
 「カタログに載るような商品はライバルが多くて価格競争に巻き込まれる。ニッチの次の市場を探さなくては」と考えた江黒社長。NC旋盤づくり20年のノウハウを基に「5軸同時制御マシニングセンタ」を商品化。小型機としては国内の草分け的存在として新たな領域を開いた。

 「5軸」というのは、刃物が縦・横・高さの3次元で自由に動き、さらに回転する台そのものも前後に傾けることができる仕組みだ。これによって複雑な削り出しが可能になる。
新型マシン「5軸制御E-32v」は、30本もの刃が使え、これらがすべて自動制御されている。大人の背丈ほどの小さなマシンだが、一度金属をセットすれば、エンジニアの設計と寸分たがわぬ製品が削りだされていく優れものだ。

小さくてもキラリと光る会社

 江黒社長の理想は「小さくともキラリとひかる、かけがえのない会社」。経営自体もジャストサイズを追求している。企業規模を大きくしてしまえば、ニッチでなく、大量生産・価格競争は避けられない。
 「消費される商品は、100億円売ったら100億の経済効果しかありません。でも、工作機械は10億円売ったら、100億や200億の経済効果につながります。わたしたちはモノづくりの底辺を支えている。そいう自負と自信を持って仕事に取り組んでいるんです。」

 魂を込めて作り上げられる、一つ一つの旋盤。「小さくても、世の中になくてはならないものを提供したい」そんな昔ながらの職人気質が、エグロの確かな礎となっている。

更なる最高精度の追求「超精密」100-Nano

「5軸制御精密小型マシニングセンタ」E-32v ロボットアームが刃物を持ち替えて自動で加工を行っていく

使いやすさを追求したNC旋盤。若きエンジニアたちが、あたらしい伝統と創ってゆく。


【取材日:2008年10月22日】

企業データ

株式会社エグロ
長野県岡谷市御倉町8-14 TEL.0266-23-5511
http://www.eguro.co.jp/