[サイプラススペシャル]20 独自の技術「カシメ接合」で世界の中軸に! ソレノイド鉄芯専門メーカー

長野県諏訪市

共進

「うれしくて仕方がない」苦境こそ最大のチャンス
新技術は「他人がやらないことへの挑戦」から生まれた

 オートマチック車に必ず用いられる部品・ソレノイド。ギアチェンジを安全かつ正確に行うために、なくてはならない装置だ。諏訪市の「共進」は、自ら「世界へ躍進するソレノイド鉄芯専門メーカー」とうたう。事実、諏訪で製造された装置が国内はもとより、世界中のクルマに使われている。
 高度な安全性が求められる自動車部品の製造で、共進は「カシメ接合」と呼ばれる独自の技術を開発。安全性はもちろん、製造コストの大幅削減を果たした。
 ITバブル崩壊後の2003年に比べ、売り上げは倍増。年間約1800万本製造され世界へ出荷されていく小さな鉄芯には、一体どんなスゴイ技術と戦略が隠されているのだろうか。

独自のカシメ接合とは?

オートマ車に使われるソレノイド

 ソレノイドは、コイルの中に入っている鉄芯を電磁石で前後に動かす装置だ。この装置が多く使われているのが、オートマチック車。自動車メーカーは、燃費の向上と変速ショックを軽減するためギアの段数を増やしており、10個近いソレノイドを搭載した高級車もある。

 諏訪市の共進は、ソレノイドの中に入っている「鉄芯」の専門メーカーで、ニッチ(すきま)中のニッチ=「超ニッチ」の分野で海外に羽ばたくモノづくりを続けている。

逆転の発想による鉄芯づくり「カシメ接合」

 共進に圧倒的な競争力をもたらしたのが独自開発の「カシメ接合」だ。
 ソレノイドの鉄芯は、コマ回しのコマのような形をしている。従来は太い円柱状の金属を削ってコマの形を作っていた。しかし、どうしても材料と時間のムダが出てしまう。
 「もっと安く作れないか」という自動車メーカーからの要求に応えるため、共進の五味和人社長は、「削る」のではなく、「組み合わせる」という正に「逆転の発想」をした。

 コマの本体となる筒の真ん中に、別に作った軸を差し込む方法だ。共進でいま生産されている主力の鉄芯は、直径5センチ程度の鉄製の筒に直径5ミリ、長さ5センチほどのステンレス製の軸を差し込んだ構造になっている。
 
 「私はもともと削り屋。でも、削るのが下手だったから、削らないで作ることにしたんです」と五味社長は笑うが、差し込む方法は実は非常に難しい。確かにコスト削減はできる。しかし、クルマの部品は、同時に極めて高い安全性を求められる。ステンレスの筒に鉄の軸を差し込んだ際、カンタンにゆるんだり、抜けたりしてしまっては商品にならない。

ゆるまないカギは「溝」だった

 軸と筒をしっかりと固定するための決め手は「溝」だった。ステンレスに突き刺す鉄の軸に溝を彫ったのだ。
 軸を筒に通してから筒の付け根の部分に圧力をかけると、筒の内側が変形する。押し出された金属が溝にはまり込み、筒と軸がしっかり固定されるのだ。溝がフックのようになり、最大160kgのチカラに耐えられる程、軸と筒はしっかりと固定される。

 独自に開発した接合方法の利点は、コストダウンだけでない。必要な部品をそれぞれ加工できることで、ステンレスと金属の他にも、精度や性能に見合った材料同士の組み合わせが可能になった。また、削りだしてから磨くのではなく、あらかじめ滑らかに磨き上げた部品を使えるため、より高い精度を実現できた。
 「様々な分野で使われているから、こんな不況にもかかわらず受注量は減っていないんです」共進の部品は、今ではオートマ車だけでなく、環境対応の新しい車の試作品などにも数多く使われているという。

これがソレノイド鉄芯。小さな金属のコマのような形状をしている。

ソレノイドは、クルマのオートマチックの仕組み(上)の他、世界的な変速機メーカー(下)でも使われる。

昭和10年生まれの五味和人社長。「逆境はチャンス」と笑顔を絶やさない。

他ではできないことをやる

共進は「男物のゲタ屋」!?

 しかし、せっかく独自に開発した技術を、ここまで惜しみなく公表してしまって良いのだろうか?
 五味社長は笑顔で続けた。「『これは企業秘密で見せられません』だと、信用してくれないじゃないですか。理解できないものを自動車に採用しますか?見せなかったら信用してくれないでしょう」他社にはできない、他社はやらない、という絶対の自信があるから、惜しみなく技術を公開できるのだ。

 なぜ、他の企業はマネようとしないのか?
 「私たちは『男物のゲタ屋』なんです」と、五味社長は冗談めかすが、この「男物のゲタ屋」こそ、ニッチ(すきま)トップの戦略に他ならない。女性用とは違い、多くは売れない「男物のゲタ」。今でこそ世界からニーズがあるソレノイド鉄芯だが、元々は買ってくれる人が少なく、作る人も減ってしまった「男物のゲタ」のような存在だった。

「仕方なく」はじめたソレノイド鉄芯

 「他にできることがなかったから、仕方なくソレノイド鉄芯を作っていたんです」と五味社長。共進がソレノイドを始めたきっかけは、他人がやらないモノへの「泣く泣くの挑戦」だった。
 昭和10年生まれの五味和人社長は73歳。1962年に「共進精密有限会社」を起こし、金属の旋盤加工を中心に事業を拡大していった。しかし、業績が順調に伸びていた1983年、諏訪市を襲った大水で本社工場を失ってしまう。
 「工場はもちろん、家も全部流され、住むところもなくなった。ゼロからどころか、マイナスからの出発でした」。

 自宅も工場も失った共進には、おもちゃ用のソレノイドを作る仕事しかなかった。おもちゃに使われるソレノイドに、高い精度は必要ない。設備を失い、職人も離れていった会社で、安い材料で簡単にできるおもちゃ用のソレノイドを細々と作っていた。

「ソレノイド鉄芯専門メーカー」としての転機

 あきらめず地道に鉄芯を作り続ける中で、1985年、大きな転機が訪れる。ホンダとの出会いだった。

 1980年代、オートマ車の急発進事故が相次ぐ中で、安全性を高めるためシフトロックと呼ばれる装置を標準装備にするよう国から指導があった。このシフトロックにはソレノイド鉄芯が必要だ。しかし、ソレノイド鉄芯はもともと「もうからない仕事」。作っている会社は少なく、ホンダも部品メーカー探しに苦労していた。
 「もうからない仕事」のため、他の業者は事業内容にわざわざ「ソレノイド鉄芯」などと書かない。そんな中、「他にできることがないから」と、共進は会社案内に「ソレノイド鉄芯専門メーカー」と書いていた。それが、ホンダの目に止まったのだ。
 「ソレノイド鉄芯専門とうたっていなければホンダさんとの出会いもなかった。今考えると、マイナスからの再出発が『チャンス』だったんです」と五味社長は当時を振り返る。

共進の新発想では、筒(上)と軸(下)を別々に作り接合していく。

自社開発の専用機械で、独自の「カシメ接合」が行われる。

軸の周りのくぼみが、強度のひみつ。高い安全性が求められるクルマで活かされている。


不景気も“ 歓迎 ”・・・

世界同時恐慌も「チャンス」

 逆境をチャンスに変えた五味社長。
 ホンダとともに開発した「削るではなく接合」という逆転の新技術も、ピンチをチャンスととらえる前向きな姿勢から生まれたのかも知れない。

 世は空前の自動車不況。
 世界中の部品メーカーが悲鳴をあげる中、五味社長は笑顔を見せる。
 「不景気だから、うれしくって仕方ないんです」
 「機械や用地は金があれば買える。でも、企業は人。簡単に手に入らないのは人間なんです」  多くの企業が新規採用を抑える中、共進は積極的に人材確保を進めている。その結果、「ウチにふさわしくない優秀な人が入ってくるんです」五味社長は満足そうだ。

ものづくりの軸は「大手が魅力を感じない仕事」

 若手育成にも積極的な五味社長。
 「共進塾」という夜間教室では、ベテラン社員が若手に技能を伝える。また、外部講師を招いて最新技術の習得も図る。五味社長も、自ら塾長となって「底辺を歩いてきた長年の経験」を伝えている。

 独自開発の技術を活用したソレノイド鉄芯の売り上げは会社全体の約50%。残り半分は従来の旋盤による製品だ。「カシメ接合は、夜店の客引きと同じなんです」と五味社長。
 難度が高い製品が作れることが、会社の評価につながり、他の仕事の受注に展開していく。だからこそ「若手育成と技術の向上に力を入れ、大きな会社が魅力を感じない難しい仕事をしていくんです」。他がやらない、他ができないことへの挑戦こそ、共進のぶれることのない「軸」となっている。

製造とともに需要なのが「検査」。大量生産の部品だが、ひとつひとつに「信頼」が要求される。

旋盤などのラインは自動化されている。


【取材日:2008年11月28日】

企業データ

株式会社共進
長野県諏訪市中洲4650 TEL:0266-52-3391
http://www.kyoshin-h.com/