[サイプラススペシャル]47 面白くなければ仕事じゃない

長野県上伊那郡箕輪町

ミカドテクノス

箕輪町にあるミカドテクノス三日町工場、ドアを開けると規則正しいプレスの音と油の臭い、まさしくものづくりの現場だ。しかし、開けたドアに貼られた1枚のポスターには、「食品開発展2009-東京ビッグサイトで開催」とある。機械部品と食品、一見つながりのない分野。しかし、その奥にこそ、ミカドテクノスの「面白くなければ仕事じゃない」ものづくりの世界が広がっていた。

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最初の特許は釣りざおの金具

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ミカドテクノスは、1953年にミカド金属工業として創業、最初の製品は釣りざおだ。断面が6角形の釣ざおの組み立てで取得した特許の図面は、旧仮名で記されている。この釣りざおの差し込み金具のために開発した深絞りプレス加工技術から、ミカドテクノスのプレス加工の歴史が始まっている。創業者の伊藤一二(いちじ)氏は「箕輪のエジソン」とまで呼ばれた人で、封筒などの宛名を連続して印刷する機械や、レコード演奏が終わると針の付いたアームが自動で戻るオートリターン装置、初期のテープレコーダーなどを開発している。現会長の伊藤英敏氏はその父から、発想する楽しさ、ものづくりの面白さを学んだという。1979年、社長に就任した英敏氏は、加工素材の領域を金属以外にも広げ、1988年には、社名から「金属」をはずし、「ミカドテクノス」とした。「テクノス」とは、「テクノロジーオブサイエンス」のこと。テクノロジーだけでは職人的なものづくり技能となり、社会的価値の創造開発を裏付ける頭脳を付記したかったため「サイエンス」を加えた。ものづくりへの経営理念が示されたCIである。

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2008年、営業担当専務から、三代目社長に就任した伊藤隆志氏は、三日町工場を案内しながら「今も仕事の3割は金属部品のプレス加工です。自社の原点はここであるとの思いは、強くあります。」と話す。プレス機を操作している社員の一人は、つい最近まで、本社の開発部門で設計をしていたそうだ。売上全体では、省力化専用機器の開発製造が柱になってきてはいるものの、若者を中心に多能工社員を育成しているのだ。社員25名という規模であるからこそできる人材育成、能力開発である。

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まず、シーズありき、ニーズは後から

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ミカドテクノスが持つ特許は120をこえる。「すべてがビジネスになるものではない」のは当然だが、次々に生まれるアイディア、発想力、それを形にする技術、比類のないエネルギーだ。一般にはものづくりの決め手は、如何に市場のニーズをキャッチし、技術を開発し、製品化していくか、だといわれているが、ミカドテクノスのものづくりは違う。お客様のニーズがあって開発するというのは、そのニーズに対しては、いずれ、ミカドテクノス以外にも、第2第3の会社(=技術)がでてくるということ、つまり、ニーズが表面化した時は、同じことを同じタイミングで考えている競合社が既に存在する状態。しかも、アイディアはお客様のものだから、そこに独自性を出していくのはむずかしい。

ミカドテクノスのものづくりは、アイディアから始まる。アイディアを形にし、自分でマーケットを作る、お客様の先を走るものづくりである。最初に、ミカドテクノスのシーズ=技術がある。ニーズは後からついてくる。伊藤会長の言い方を借りればこれらの新しい技術を「持って帰って社会の役に立つものを早く作ってくれ」「アイディアは一つだけではなくいくつも考えるのが好きだから、使ってくれるとまた次の案が浮かぶ」。今、ミカドテクノスの最も注目されている技術のひとつ「真空プレス」も、ここから生まれたものだ。

「出来たら面白いな」から生まれる

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プレスといえば金属、しかし、金属のプレス加工はどこでもやっている。独自性を掲げるミカドテクノスは考えた。金属のプレス加工の実績を積んだ上に、エアプレス装置を商品化した。1970年代のことである。エアプレスは粉末加工、基板のはり合わせにも便利だ。ここから、加工素材がフィルム・粉などの非金属の分野に広がっていった。

「これからは、軽薄短小の時代だ、スプーン1杯の粉でものを作ることが出来たら面白いな」こうした縛られない発想がミカドテクノスの次の技術を生む。

フィルム加工時の課題は「はり合わせの時にできる気泡をどう取り除くか」。そこに「真空」というキーワードが結びついた。しかも、ミカドテクノスが目指したのは、大きな空間を囲い込み、真空を作るのではなく、「必要な部分だけを真空にする」装置。プレス型の周辺のみであれば「瞬間」に真空状態ができる。小型であれば、装置の製造コストは抑えられる、真空ポンプも小さくていい、軽量、消費エネルギーも少量、場所も取らない。こうして短時間で必要な空間に「真空」を作る「ミカド式真空プレス機」が誕生した。

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「真空」って面白い

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「真空」を利用した開発は、さらに重ねられていく。最大430℃の耐熱加圧システム、センサを用いて位置制御の誤差は±10μm以下という高精度均一加圧システムも実現した。装置の放熱システムもミカドテクノス独自の発想だ。また、真空状態で光を照射し、樹脂を貼り合わせる「UV硬化真空熱加圧装置」は、光の新たな可能性をも予感させる装置だ。「真空プレス機」の原理は、加工の自由度を高め、様々な分野での利用が可能だ。その分野の一つが機能性食品、「食品開発展2009」のポスターにつながる。

ミカドテクノスの商品紹介カタログの1枚にりんごの写真が掲載されている。真空中で赤ワインに漬けた皮付きりんごである。数分で均一なワイン色に染まるという。これが「真空高圧含浸装置」だ。新しい味や食感、食品への機能追加など、可能性を秘めた「食品への含浸作用」、東京ビッグサイトで開催される「食品開発展2009」で展示される技術だ。

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「真空」「加圧」「加熱」の組み合わせで、ひろがっていくプレス加工の可能性、「ミカドテクノスの技術を知ってほしい」と、展示会への出展も意欲的だ。食品・半導体・フラットパネル展・ナノテク展・電子部品展など少なくとも2ヶ月に1回はビッグサイトに店を出し、不足している営業のマンパワーを補う。今年は全部で9回の出展を予定している。

技術も機械もお貸ししますーレンタルラボ

今や売上の半分を占めるまでに成長した「真空」関連機器、しかし、今回の景気悪化の影響で、ミカドテクノスの工場の稼働率も大きく減っている。この景況では、設備が欲しくても買えない企業の事情も十分わかる。そこで、考えたのが、ミカドテクノスの特許技術を技術者込みで貸し出す「レンタルラボ」。「今は設備投資が出来ないが、新製品開発のために装置を使わせてほしい」という声に応えたサービスだ。中箕輪の本社工場では200℃対応の真空熱加圧装置から真空三次元熱加圧装置、UV硬化真空熱加圧装置の4台を提供、三日町工場では食品用と工業用の真空高圧含浸装置も含む計4台が用意されている。必要なテスト品や冶具を持ち込めば様々な実験が出来る。その結果、製品化の目途が立てば、ミカドテクノスの設備機器の購入につながるケースもあり、将来のビジネスにつながる。機械操作のサポートも含めて費用は1日平均8万円、借り手は全国からやってきている。使用期間は、長期も短期も、繰り返しもあるなど、様々だ。ミカドテクノスにとっても、開発技術者が直接お客様と接し、新しいテーマや発想と出会う場面である。レンタルラボの実験室は心地よい緊張感に満ちていた。

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皆を楽しませるものづくりを

ミカドテクノスのものづくりの基本は国内、安さを求め海外シフトするなど、短期的なコストにとらわれたものづくりは、潔しとしない。ミカドテクノスは設備機器メーカーだが、ステークホルダーはあくまでも消費者。ミカドテクノスの装置を使って、良い製品が安く世の中に出ていくと、消費者が喜ぶ。それがミカドテクノスの社会的貢献であるというポリシーだ。

2006年、ミカドテクノスは、第一回の「明日の日本を支える元気な中小企業300社」に選ばれた。また、同年第40回「グッドカンパニー大賞特別賞」も受賞した。しかし、何ものにも代えがたい魅力は、ミカドテクノスの持つ未来へのパワーと可能性。 間違いなく、長野県を代表する「創造開発型」ものづくり企業である。

【取材日:2009年9月15日】

企業データ

ミカドテクノス株式会社
長野県上伊那郡箕輪町中箕輪9745 TEL:0265-79-2323
http://www.mikado-net.co.jp/