[サイプラススペシャル]49 世界最後発の「まきストーブ」メーカー 独自の「燃焼哲学」は日米独で特許

長野県千曲市

モキ製作所

燃焼効率向上で、煙が出ない!?
輸入まきストーブの欠点を克服した技術とは

 特徴的な大きな赤い窓。耐熱ガラスの向こう側には、赤々と燃えるまきが見える。
 「燃焼哲学」と名付けられた、モキ製作所オリジナル無煙薪(まき)ストーブだ。

 たき火しかり、暖炉しかり、木を燃やせば当然、煙が出る。しかし、このストーブは「無煙」。煙や灰がほとんど出ない優れモノだ。「燃焼試験なら世界一」という自信。開発にかける熱い炎が「ワザあり」のすごい技術を生み出した。

完全燃焼にかける

「無煙」は世界一の燃焼実験から生まれた

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 「炎で、温度を見分けるんです。」笑顔でそう豪語するのは、モキ製作所・茂木国豊社長。社長の確固たる自信には、理由がある。「繰り返し、繰り返し、実験しています。燃焼の試験なら世界一だと思います。」
「世界一の燃焼実験」から生まれたのが、「無煙薪(まき)ストーブ」だった。

 木材を燃やせば、通常、煙が出る。この煙の原因となっているのは、不完全燃焼だ。完全に燃焼しないことで微粒子が発生し、これが空気に混ざり煙となる。だから、「完全燃焼させれば、煙は出ない」と茂木社長は言う。「完全に燃焼させるためには、高温にすればいい。」


キモは「茂木プレート」

 なぜ、モキ製作所のストーブは「無煙」なのか?
 そのカギは、「茂木プレート」と名付けられた、1枚の鉄の板にあった。

 「燃焼」は、激しい光や熱を伴う酸化、つまりまきの中の炭素などが、空気中の酸素と結びつく現象だ。完全燃焼のためには「空気を対流させることと、高熱にすることが大事」と、茂木社長。

 「実験を繰り返し」茂木社長が考え付いたのが、ストーブの中を2つの部屋に分ける構造だった。完全に分けてしまっては、対流が起こらない。空気を取り入れる空間と、まきを燃やす空間を分け、絶妙のバランスで空気の流れを作ることが「無煙」の肝(キモ)となる。

同じに見えても、まったく違う

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 ストーブの中を覗くと、燃え盛る炎の奥に、いくつかの穴が見える。炉内の煙突口付近に取り付けられた、たくさん穴を開けた鉄板こそ「茂木プレート」。

 プレートで空気の対流を発生させ、無煙を実現した。金属プレートが熱を持つこともさらに効果的だ。
 しかし、ただプレートを付ければ完全燃焼が実現するというほど、カンタンではない。取り付ける位置や、穴の数など「同じに見えても、中身は全く違う」と茂木社長。この発明もやはり、繰り返しの実験から生まれた。


「世界最後発」のまきストーブメーカー

日米独で特許取得

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 モキ製作所のプレート構造は、日本の他、米国、ドイツでも特許を取得した。
 「通常のまきストーブの燃焼温度は400度。ウチのは800度。」歴史ある欧州製などと比較し「輸入品の欠点を克服した」と社長。「最近は、買い替え需要が多い。まきストーブにあこがれて導入したご家庭が、故障やメンテナンスの大変さから、ウチの製品に取り換えたいという相談が増えている。」

海外で特許など、モキ製作所が欧米にこだわるのにはワケがある。
 「ウチは、『世界最後発』のまきストーブメーカーです。」

輸入品には負けない「世界最後発」

 社長の「世界最後発」には、輸入品には負けないという強い自信が感じられる。

 化石燃料を使わないエコロジーの観点から、国内でも人気のまきストーブだが、ノルウェーやデンマークなど北欧製が市場の多くを占めている。100年以上も歴史があるこうしたライバルに対し、モキ製作所がまきストーブ市場に参入したのは、1990年代。「他社とは違うモノ、世界に無いモノを生み出したい」という茂木社長の心にともった情熱の炎が、開発の原点だ。

moki06.jpg  機能面のみならず、デザイン的にも進化を続ける。
 輸入ストーブは、「暖をとる」目的の他に、家具・インテリアとしての魅力も兼ねそろえている。パチパチと燃えるストーブに、まきをくべる「特別な時間」を楽しめるからこそ、男性を中心に多くのファンを魅了している。

 「火を見ていると時間を忘れる。テレビの感覚で、たき火鑑賞を愉しめる。」今年(2009年)9月に発売したばかりの新製品の特徴は、ストーブらしからぬ洗練されたデザイン。鋼鉄製の赤い扉に、大きな耐熱ガラスがはめ込まれ、内部で燃える様子がよく見える。
 長野県工業技術センターの地域資源製品開発センターに協力を依頼し実現したというデザインで、「テレビ感覚」の言葉通り、ドアの大きさもテレビ画面のように、17・20・32インチと3種類を揃える。


性能でも世界一

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 「これからは輸出も考えている。」「世界最後発」のもう一つの意味は、世界市場への挑戦だ。
 「輸入まきストーブのほとんどは鋳物」と、茂木社長。性質上、鋳物はどうしても300度を超えると割れてしまうことが多く、結果故障が多いというのだ。「ウチは鋼板製。だから、高温に強く壊れるところがない。寿命も20年以上。」
 まきの種類も、多くのストーブが広葉樹のみの使用に対し、「高温で完全燃焼させるから、針葉樹でも、廃材や竹でも大丈夫」という。


情熱を燃やす夢とは

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 千曲市内の鍛冶屋(かじや)の4代目として生まれた茂木社長。幼少から「燃える」ことの研究を続け、金属加工の技術も磨いてきた。
 20代から、きのこ生産用の設備やボイラーなどを独自に設計開発し、家庭用焼却炉は大ヒット。生ごみとプラ容器などを分離する産業機械は、大手食品メーカーなどでも活用され「市場をほぼ独占状態」だという。40の特許を持つ茂木社長は、まさに長野県が生んだ「発明おやじ」だ。

 高い性能と美しいデザインを兼ねそろえた信州産のまきストーブが、欧米市場を席巻する...60歳を超え、茂木社長はまだまだ熱く燃えている。

【取材日:2009年9月28日】

企業データ

株式会社モキ製作所
長野県千曲市内川96 TEL:026-275-2116
http://moki-ss.co.jp/