[サイプラススペシャル]56 量産から、開発型ものづくり企業へ

長野県佐久市

カウベルエンジニアリング

 カウベルエンジニアリングは、1974年、佐久市に誕生、今年創業36年目を迎えた。創業以来、音響・映像・通信機器などの一貫生産、更に半導体の後工程のセンサー部品や、電子部品の試作や量産、また、ソフトウェアの設計開発からハードウェアの設計開発まで、あらゆるお客様のニーズに応えることを目標にしている。
 現在は佐久市長土呂の本社近くに近津工場、そして東京都千代田区に東京事業所、高崎市に北関東事業所を展開する。120名の社員の平均年齢は31.4歳、半数が研究開発部門に属している。「自社技術を売る」、創業以来の量産体制を維持しつつ、時代をリードする研究開発型企業へと、若い集団を率いるのは、2代目社長坂川和志氏45才である。

Get the Flash Player to see this player.

OEMからEMSへ そして開発も、量産もできる

cowbel08.jpg

 創業当時は、大手メーカーの委託を受け、部品製造や加工、アッセンブルまでを請け負う技術力のある下請け工場だった。
 製品は測定器やゲーム機器、カセットテープレコーダー、ラジカセなど、すべてOEM生産。ものづくりが安定していた時代で、学校卒業後、電機メーカーの開発部門で組み込みソフトの開発の仕事をしていた坂川社長は、自社に戻ることは全く考えていなかったという。もっと技術部門に力をいれたいと考えていた創業者である父親の現会長から、「自社で開発の仕事を」と声がかかった時も、どうしようかと迷ったそうだ。考え抜いて、一人で戻っても何も出来ないからと、同じ会社で働いていた仲間数名の入社を条件にカウベルエンジニアリングに戻り、開発部門を立ち上げた。1991年である。
 しかし、量産オンリーでやって来たカウベルに、なかなか開発の仕事はなく、製品の設計を含む受託生産(EMS)が続いた。そんな状態が変わってきたのは、2000年をすぎた頃、大手メーカー依存の量産工場でいいのか、大手メーカーと組んだ委託開発では、生産はよそへ持って行かれて自社には何も残らないではないか、そんな思いが社内にでてきたという。

cowbel03.jpg

 「ここ数年、社内で利益率が高い自社ブランドを出していきたいと社員のモチベーションが高くなってきています。」坂川社長はかみしめるように語る。実際、委託開発はかなり減って、様々な異業種の連携の中で自社開発の機会が多くなってきているという。研究所・ベンチャー企業から声がかかると、開発、試作品を提供、検査用装置もつくり、工程のラインまでつくってしまうのだ。スピードをアピールし、取引先も10社20社と増えてきている。
 今回の不況の中でも、受注数は2~3割ダウンしたが、全体の売り上げへの影響は受注数ほどではなく、「何とか持ちこたえている」。「受託開発のものつくり自体もやりがいがある仕事だが、自社商品を出して行く喜びはまた格別です。」開発者の力、技術力への自信につながっているのだ。ソフトウェア・ハードウェアの開発、そして量産体制。創業以来の流れが、今、結集した感がある。

ブランドは「カウベルエンジニアリング」

cowbel04.jpg

 カウベルエンジニアリングの自社商品の一つが、「どこ行くの検出器」と名付けられた高齢者徘徊通報システムだ。認知症の患者さんが無断で外出したときに介護者に「音」や「光」で知らせる。ポイントは、患者さん以外が持つ「認証キー」。出口に監視機を設置しておき、認証キーを持っていない人が通ると警報機が鳴り、LEDランプが点灯する。警報機やランプは、家庭であればキッチンや居間、施設であれば事務室など必要な場所に設置できる。
 認証キーを患者さん以外がもつという発想が斬新だ。既に『介護福祉用品』として登録されているが、外部からの不審者も監視でき、設置場所によっては警備・セキュリティー装置として利用可能だ。電子ロックの分野でも実績のあるカウベルエンジニアリングの電子機器・無線利用の技術が実った製品である。

cowbel05.jpg

 次は、街路灯や、看板の照明に使うLEDチップを使った縦横30センチくらいの大きさの照明板である。東京のベンチャー企業が、制御設計を行い、LEDチップ以外はすべてカウベルエンジニアリングが製造している。
 一口に設計図に従って作るというが、要求されている性能を、適正なコストで製品化するためには、高い技術力が必要だ。蛍光灯タイプの製品も販売が視野に入っており、このLEDによる照明器具は、カウベルエンジニアリングの環境分野への足がかりとなる新商品である。

 そして、来春、市場に出したいと調整を進めているのが、国内初の「マルチカードリーダー」。クレジットカードや、運転免許証やパスポート、社員証など、様々なIDカードが利用され、それぞれの方式にあった読取装置が必要となっている。読み取りと認証を一つの装置で対応するのが、マルチリーダー装置。出退勤管理、各種会員サービス、個人認証端末など、マルチリーダーを搭載したシステム開発は、まさに求められるソリューションである。
 マルチリーダーの開発拠点は、高崎と東京。「たくさんの人が集まる場所で新しい技術を生み出すアンテナを高く。これからは営業も出来る技術者の時代だ」そんな社長の方針から生まれたアイディアと、カウベルエンジニアリングの得意の通信・センサー系システムが、合致して時代の要請に応えた商品といえる。このシステムの開発は、中小企業ものづくり支援事業の一つにもなっている。

坂川社長は、生き残っていくために「隙間で数が少なくても、質・価値が高いもの作りを続けていく。大きな市場や、超量産は狙わない」という。当然、安い数ものは、中国をはじめとする海外に出て行く。しかし、たとえば、プロ用カメラのビューファインダー、生産数が少なく、海外に出してもメリットがない。こういうものは、国内の唯一の生産拠点として、カウベルエンジニアリングで製造し続ける。「これからは市場としての中国に関心を持ちたい。」視野が広がる。
 近津工場の量産ラインは、150台の機器が24時間フル稼働を始めたという。創業以来の電子機器のものづくりは、信頼の要、設計開発・試作ラインの請負、ワンストップのライン生産、品質保証まで、積み上げた実績は揺るがない。緑のランプが点灯しているフロアを見つめるのは、少子化高齢化・医療介護福祉分野・環境と時代の移り変わりの中で新たなものづくりの分野を模索し続けている経営者の厳しい目だ。

地域とともに ― 『自社だけ良ければ』ではない

cowbel06.jpg

 カウベルエンジニアリングは、環境省のメガワットソーラー共同利用モデル事業を推進する有限責任事業組合「佐久咲くひまわり」の一員でもある。日照時間が約2000時間と日本でもトップクラスの佐久市は、太陽光発電に適した地域である。カウベルエンジニアリングも、近津工場の屋上に600枚の太陽電池パネルを設置している。100KWの発電が可能で、近津工場の電力消費量の10数パーセントを賄う。
 この設備投資の減価償却は、補助金を勘案しても最低15年、100年に一度と言われる厳しい時代の、生産に直結しない設備への投資である。しかし、坂川社長は、今後、環境分野でも自社ブランドの製品を、世に問うていこうとしているカウベルエンジニアリングが、全国的にも注目されている太陽光発電のモデル事業に参画した意義は大きいという。「自社だけよければという考え方ではない。全社が自信を持って仕事をしているか、地元に貢献できているか、後々、時代の中でやっておいて良かったと思える仕事をしているか。これが大事なのです。」
 近津工場の玄関には、屋上の太陽光パネルを映し、発電状況を示すモニターが掲げられている。工場横の見学用の通路から、屋上に上ると工場の西側には、工事が進む中部横断自動車道も見える。新幹線、高速道と拡大する交通網、600枚の太陽光パネル、「ものつくり」の未来への意気込みが伝わってくる。

カウベルをつけて、群れを率いる

cowbel07.jpg

 カウベルとは牛(カウ)などの家畜の首に付ける、金属製の鈴(ベル)のことだ。岡山県出身の先代が会社をおこした1974年は、丑年である。高原にある牧場の牛の群れの中で、カウベルを下げる牛は群れを先導する役割を持つ。この地域を先導できる企業になりたい、まだまだカタカナの名前を企業名にすることが少なかった時代に、想いをこめた「カウベルエンジニアリング」の社名である。量産体制を維持しつつ、研究開発型企業として挑戦を続ける、カウベルの音色が、浅間山の麓に響く。

【取材日:2009年11月24日】

企業データ

株式会社カウベルエンジニアリング
長野県佐久市長土呂1739-1 TEL:0267-67-1511
http://www.cowbell.co.jp/