[サイプラススペシャル]62 ‘コア技術’を昇華させ、新素材・新市場へ挑む 「ボイラーの羽生田」から、クラッチドア式高圧殺菌釜へ

長野県長野市

羽生田鉄工所

養蚕、みそ、きのこ・・・地域産業を支える完成品メーカー
新素材「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」で未来へ

 かつて「ボイラーの羽生田」として知名度を築き上げた羽生田鉄工所。現在の主力商品は、キノコ生産用の高圧殺菌釜や、大豆を蒸す大型の圧力容器などだ。地域のニーズに応えるものづくり企業として、養蚕からみそづくりやキノコへと、長野県の地場産業を支えてきた。
 創業明治17年。堂々たる“100年企業”羽生田鉄工所は、なぜ「企業の寿命は30年」説を超えて発展することができたのか?新商品開発、新市場開拓と、新たな未来を切り拓こうとする地域企業の挑戦に迫る。

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100年続く地域密着完成品メーカー

ひとりひとりの技術が財産

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 重厚な金属音が響く。溶接の火花が飛び散る。
 長野市・柳原にある羽生田鉄工所の工場では、十数台の圧力容器が組み上げられている。「容器」というが、大きさはコンテナ程の特大サイズ。クレーンで鉄骨を持ち上げながら組み立て、幾枚もの鉄板を技術者たちが溶接していく。
羽生田鉄工所の主力商品は、こうした殺菌釜、圧力釜、タンク各種機器。キノコやみその大規模生産には欠かせない圧力容器を製造・販売する、完成品メーカーだ。

 従業員約90人のうち、40人以上が工場で働く技能職で「ひとりひとりの技術が、ノウハウであり財産」と羽生田豪太社長。コンビニやファストフードなどのマニュアルに落とし込める生産ラインとは「まったく逆」という。

装置作りは、ワザの積み重ね

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 「彼、若いんですが、溶接の技術は社内でもトップクラスです。」
羽生田社長が紹介した先には、火花の先を見つめる工員の姿があった。ミクロン単位のすき間も許されない高圧容器製造において、金属と金属をつなぎ合わせる溶接は、重要な作業のひとつだ。中でも、「羽生田のコアとなる技術」という"扉"部分の溶接作業を行う30歳前後の社員を、社長は「トップクラスの技術者」と紹介する。

 「彼はもともと、ペンキ屋。今は、電気屋。」
 羽生田社長が、笑いながら紹介した別の社員。電気屋の彼の仕事は、製品の最終工程、「命をふきこむ」作業ともいえる電気配線だ。組み立てや溶接とは、全く別の電子・電気系の専門知識が必要となる職種だが、「もともと塗装など担当していたが、社内公募で今の仕事に自分で手を上げた」という。

選考方法は「やる気」

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 「大事なのは、やる気です。」エネルギッシュな44歳の羽生田社長は「やる気」を大切にする。「精神論、と笑われるかも知れませんが。」

 毎年夏に開催され、50人近くの社員が参加する社内の溶接コンテストも一例だ。前述の若き溶接工は、去年の大会で上位入賞を果たした。
 「そもそも溶接は職人の技なので、技術の継承が課題でした。」コンテスト前になると、通常業務が終わった後、練習に励む技能職の姿がみられるように、モチベーション向上にも一役かっている。

 電気屋の彼以外にも、企業として大きな先行投資となる開発部門の4人のスタッフも「社内公募でした」と、社長。極めつけは採用。「選考方法/面接のみ(やる気)」と明記していた。

新素材、新市場、新たな100年への挑戦

地場産業を支えるものづくりメーカー

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 「鉄を加工する、というのは変わらない。お客様の要望にこたえていたら、業態が変わっただけです。」"100年企業"の若き経営者は語る。

 創業1884(明治17)年。
長野県須坂市で鍛冶屋として始まった羽生田は、1900年当時、日本の主力産業となる蚕糸業のボイラー製造を開始した。今でも、インターネット百科事典ウィキペディアで「ボイラー」を検索すると、主なボイラーメーカーに羽生田鉄工所の名前が掲載されている。

 かつては「ボイラーの羽生田」だったが、現在、ボイラーはほとんど生産していない。年間売上高約14億のうち7割を、キノコやみそ生産用などの圧力容器が占める。鍛冶屋の技でボイラーをつくり、ボイラー製造技術を大型の密閉タンクへと展開した同社は、養蚕からみそづくり、キノコ生産と、長野県の地場産業を支えるものづくりメーカーだ。

核となる「クラッチドア」とは?

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 「どこにも負けない技術は、コレです。」スーツ姿の社長が首から下げていたのは、大型の懐中時計のような金属の部品だった。「クラッチドア、つまり開閉装置です。」展示会用に作られたミニチュアというその装置は、本来はボイラーや圧力容器の"ふた"の部分だ。

 「圧力をかける装置ですから、扉の部分は特に重要。もともと『ボルト式』といって、すべてはめ込んでしまう形式が主流だったが、キノコ生産のように開け閉めするにはボルトでは手間がかかる。ふたを閉めてしっかりと密閉できることがわが社の技術力・コアコンピタンス」と、社長も自信を示す。

 かつては「ボイラーの」羽生田鉄工所だが、現在の枕詞は「クラッチドア式高圧殺菌釜の製造販売」だ。

新素材への挑戦

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 「仕事は、受身では面白くない。」
 2005年、羽生田鉄工所は、新事業の製造販売に乗り出した。圧力化工装置「オートクレーブ」だ。

 新型ジェット機のボディで採用され、クルマの軽量化の切り札としても注目を集める「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」。軽くて強い炭素繊維をプラスチックで固めたもので、鉄と比較して、重さは4分の1、強度は10倍。アルミニウムに変わる未来の新素材として期待されている。
 羽生田鉄工所がつくるオートクレーブは、CFRPの「焼き釜」だ。
 カーボン繊維を編みこんだ布(シート)に熱で固まる樹脂を染み込ませ、オートクレーブで加熱・加圧することで、様々な形に成形することができる。加熱、加圧の技術は、もちろん圧力容器の技術を応用している。

「顧客ニーズ」に応じて進化する

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 「主力のキノコ用高圧殺菌釜も、市場は飽和状態。"次の柱"が必要だ。オートクレーブは小さくても柱のひとつにしていきたい。」

 農機具から養蚕、そしてみそづくりからキノコ生産へ。羽生田鉄工所は、地域のニーズに応え、鍛冶屋、ボイラー、高圧殺菌釜へと発展させてきた。
 新素材CFRPという異分野に挑戦する背景には、コアとなる技術を活かした新商品という以上に、「顧客のニーズに応じた技術を提供できる企業になりたい」という羽生田社長の意気込みが感じられる。

世界で戦う'信州企業'へ

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 新素材への挑戦とあわせ、羽生田鉄工所にとってのもうひとつの「新たな柱」が中国進出だ。
 安い労働力を求めたかつての姿とは異なり「世界の工場、世界の市場」として、中国には新しいビジネスチャンスが広がる。「今年中に工場が完成し、製品生産をはじめる」という中国工場も「そこに顧客ニーズがあるから」こその展開だ。

 「長野の企業だから、長野が本拠地なのは当然じゃないですか。」
 世界で戦う企業へと変貌を遂げようとする羽生田鉄工所のリーダーに、あえて「なぜ長野にとどまるのか?」と質問したところ、社長は「なぜそんな質問を」といった表情で答えた。
 「企業がここまで続いているのは、地域の支えがあったからこそ。装置というのは、ひとつひとつが技術の積み重ねで、その技術は社員ひとりひとりの中にあるワザ。ここで働くひとりひとりも長野の人なのだから」長野にとどまるのは「当然」というのだ。

 明治以来100年以上続く'信州企業'が、新たな100年に向け挑戦をはじめた。

【取材日:2010年2月17日】

企業データ

株式会社羽生田鉄工所
長野県長野市柳原2433 TEL:026-296-9221
http://www.hanyuda.co.jp/