[サイプラススペシャル]72 生よりおいしい“ジャム” あえて取り組むのは「手間がかかる」ジャムづくり

長野県埴科郡坂城町

デイリーフーズ

「もっとおいしいジャムをつくりたい」
新発想・新技術を取り入れた後発メーカー

 ガラス瓶の蓋をあけると、広がるフレッシュな香り。‘ごろん’とした果肉が残るジャムをたっぷりパンにのせれば、それだけで華やかな朝食になる。そんなジャムを作っているのが、坂城町に主力工場があるデイリーフーズだ。
 縮小傾向にあるジャム市場において、着実に売り上げを伸ばすデイリーフーズ。おいしさの裏にある「他社にはできない」ジャムづくりの“新発想”とは一体どんな技術なのか?

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信州坂城で40年続くジャムづくり

面白くってやめられない

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 「生で食べるよりおいしいジャムをつくりたい。」
76歳という年齢を感じさせない屈託ない笑顔。創業メンバーの一人であり、現在も開発を担当する高松宏副会長は続けた。「面白くって、やめられない。」

 ものづくり企業が集積する坂城町。南北に流れる千曲川の西岸、びんぐし山のふもとに主力工場を構えるデイリーフーズは、1970年の創業時から40年間、この地でジャムを作り続けている。

追求するのは「新鮮・フレッシュ」

 フルーツがたっぷり入ったケーキやフルーツヨーグルト、アイスクリーム。
 私たちは知らぬ間に、坂城でつくられたジャムを口にしている。それがデイリーフーズの主力商品「フルーツプレパレーション」だ。
 プレパレーションは乳業メーカーや製菓・製パン向けに販売されるジャム。デイリーフーズの生産するジャムの75%はこうした業務用商品が占める。

 「大事なのは、フルーツの新鮮さ。フレッシュ感あるものをつくりたいと、常に考えている」という高松副会長の言葉通り、畑から摘み取ってそのまま使われたかのような食感や香り・味が市場の高い評価を得て、後発メーカーにも関わらず確固たる地位を築いている。

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ジャムの革命・新発想の製法

独自の「ジュール加熱製法」

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 鮮やかな色。果肉がしっかり残るジャム。
 デイリーフーズのこだわりは、これまでのジャムづくりの概念を打ち破る、新発想の製法にあった。それが「ジュール加熱製法」だ。
 仕組みは簡単。なんと、ジャムそのものに電気を流し、加熱してしまう。
 素材そのものが熱くなるため均一な加熱が可能になり、時間も10分の1に短縮され鮮度も保てる。新製法のジャムは、フルーツの生の風味や食感が特徴だ。

 理科の授業で登場するジュールという言葉。
 電気抵抗があるものに電流を流すと熱が発生する仕組みで、「ジュールの法則」を思い出す方も多いだろう。このジュール熱を、ジャムの加熱殺菌に応用したのがデイリーフーズが特許をもつ独自製法だった。


加熱時間が10分の1

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 「食品加工の大きな課題は殺菌。これまでのジャムは、蒸気などで加熱して殺菌してきたが、この方法では均一に加熱するのに時間がかかる。」従来30分かかっていた殺菌時間は、新製法では約3分。
 「もともとジャムの味わいはじっくり煮込んだ独特の風味にあるとされていた。しかし、私たちが取り組んだのは、フルーツの新鮮なおいしさを生かしたジャム。これまでにない味覚を提案したかった。」
 爽やかな味とすっきりした食感のデイリーフーズのジャムは、ジャムの概念を変えた。

 「ヒトがやらないこと、他社ができないような面倒なことを主力でやっていこう。最初から『手間がかかること』をやるという気持ちでスタートした。」
 直接電気を流し加熱・殺菌するというアイデアは、高松副会長の「もっとおいしいジャムをつくりたい」という情熱から生まれた。

ヒントは木製パン焼き機

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 「新鮮でフレッシュなジャムをつくるために、どうやれば短時間で加熱ができるかいろいろ考えた」という高松副会長。どんなに火力を強くしても、外部からの加熱では均一に温めることが難しい。大型電子レンジにも挑戦したが、うまくいかなかった。
 発想のヒントは、戦後人気を博したパン焼き機。
 現在のような全自動のおしゃれな機械でなく、当時は木製だった。水で溶いた小麦粉を木箱に入れ、そこに電気を流すと小麦粉が勝手に発熱し膨れる。パンが焼き上がれば電気は流れなくなる。「これだ、と思った。」

一番の苦労は「お金」

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 ジャムに直接電気を流す?
 なかなかイメージできない私たちに、開発担当の高波修一室長は、目の前で実験を行った。
 イチゴと糖分を調合したジャムを、透明な容器に入れる。側面には金属板。ここにクリップを挟み、電気を流す。備え付けられた温度計のデジタル表示は60度を超えたあたりから一気に100度近くまで上昇、ジャムの原料は沸騰し始めた。
 「少量なら仕組もかんたんだが、量産となれば別」と、高波室長。「研究はジャムづくりのすべての工程を知らないとできません。」

 太陽光パネルが輝く長野工場。衛生管理が徹底された生産現場の一角に、透明なパイプが特徴的な装置が稼働している。これがジュール熱で加熱・殺菌する独自に開発した機械だ。
 「一番の苦労は『お金』だった」と、高松副会長。理科の実験装置のような外見、むき出しの電気配線などに苦労がしのばれる。補助金なども積極的に活用し、1995年ついに「他社にない」製法は実用化された。

ジャムの「研究開発型企業」

新発売「発酵ジャム」とは?

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 「安心・安全はもちろん、おいしくて健康にもいいジャムをつくりたい。」デイリーフーズの挑戦は終わらない。
 「これから一般販売を行う商品です」と、高松副会長が取り出した「発酵ジャム」。今春からお目見えした新商品だ。

 リンゴ、イチゴ、ブルーベリー、ニンジン全4種類を試食させていただいた。鮮やかな色と香り、しっかり果肉がのこるのは変わらない。口に含むと、まろやかで爽やかな甘みと酸味が広がる。乳酸菌という言葉から強い酸味を想像していたが、決して酸っぱいということはない。むしろ風味豊か、という表現がふさわしいジャムだ。
 新発売の「発酵ジャム」は、県の食品研究機関から高波室長を招き研究を進めてきたデイリーフーズの自信作。

 「いくつもの菌から、おいしいジャムにふさわしいものを見つけ出す作業を繰り返した。」と、高波室長。植物性乳酸菌で果物や野菜を発酵させることで「整腸作用や免疫力を高める効果が期待できる。」発酵させるという新発想も「商品化は他に例がない」という。

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健康志向・本物志向への挑戦

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 長野工場の敷地内には「アップルファーム」と名付けられた店舗もあり、誰でも一般向けジャムを購入できる。取材した日も地元を中心に多くの客で賑わっていた。お目当てはケーキ。工場内の店にも関わらず、プロのパティシエが毎日ケーキをつくる。
 「食べてもらい、おいしさを分かってから買ってもらいたい。」一般向けのジャムはもちろん、洋菓子屋にもジャムを販売するデイリーフーズにとって、工場内店舗は消費者と生産者を結ぶ場であり、店がオープンした1986年以降「開発型企業」への舵取りを明確にしてきた。
 さらに2001年には農業生産法人も立ち上げ、原料生産からトータルでよりよいジャムづくりを目指す。

 「健康志向、本物志向はこれからも高まる。」あらたに経営者と開発担当を迎え一線からは退いたとはいえ、70歳を超えても情熱に燃える創業者。「生よりおいしいジャム」信州・坂城の地で40年続く"信州発ジャムづくり"の信念は、これからも続いていく。

【取材日:2010年4月6日】

企業データ

デイリーフーズ株式会社
長野県埴科郡坂城町上平1434 TEL:0268-82-3671
http://www.dfc-net.co.jp/