[サイプラススペシャル]80 ガラスにミクロン単位の情報を刻む ロボットをスムーズに動かすコシブの技術

長野県下伊那郡松川町

コシブ精密

「模様のように見える?」円盤にミクロン単位の目盛!
最先端を支える「常に一歩先を行く」技術

 2本の足で歩く日本製のヒト型ロボットの関節部分に、信州発の技術が生かされているのをご存じだろうか?
 コシブ精密で作り上げられる小さなガラスの円盤。ここに刻まれた1000分の1ミリ以下の目盛こそ、ロボットの関節やエレベーターのスムーズな動きに欠かせないスゴイ技術なのだ。
 信州・伊那谷で生まれるミクロン単位のワザ、「一歩、先行く」技術に迫る。

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滑らかな動きに欠かせない技術とは

美しく「青き模様」の秘密

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 コバルトブルーに光るドーナッツ型の円盤。
 一見すると音楽用CD(コンパクト・ディスク)のようにも見えるが、CDはプラスチック製でこちらはガラス製。表面の輝きが違う。さらに、限られたサイズのCDとは違い、大小さまざまなディスクが並ぶ。大きなものは直径20cmほど、小さなものは1cm以下で指先に乗るサイズだ。

 このディスクの表面に見える「青い模様」に、コシブ精密のミクロン単位の高度な技術がある。

コシブ自慢の「スリット板」とは?

 コシブ精密の主力製品は、円形の「スリット板」と呼ばれる部品。
 ロボットの動きの制御装置などに使われ、「国内シェアは50%を超える」と荻原正義社長も自信を示す。

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 制御装置は「ロータリーエンコーダー」と呼ばれ、微細な目盛を付けたガラス製のドーナツ盤に光を当て、角度を検出する。機械の滑らかな動きに不可欠で、産業用やヒト型ロボットの関節の他、エレベーターや情報機器の制御などに用いられる。

 コシブが製造するスリット板は、大小5000種類以上。最も小さい1cm以下のディスクはヒト型ロボットの指の関節に使われるという。

「129万6千分の1」の目盛

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 「重ねて回すと、模様が動くでしょう。」自慢の自社製ディスクを手に、荻原社長は笑顔で説明をはじめた。
 非常に小さな複数のスリット(切れ目・隙間)を光が通ると、「干渉」と呼ばれる現象が起こり、光に強弱がついてまるで模様のように見える。コシブ精密が作るディスク上に彩られた「青い模様」の正体は、微細なスリット、つまり目盛だ。「このディスクに光を入れて、信号を光センサーで読み取る。回転した移動量をこのパターンでキャッチするんです。」

 目盛と書いたが、私たちが普段目にするものさしなどにプリントされた目盛とはケタが違う。どのくらいのサイズですか?とたずねると、荻原社長は答えた。
 「360度を129万6千分の1に分けています。」

「一歩先へ!」積極投資の裏側

数億円の最新機械を導入

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 「もともとミクロン単位と言っていたが、最近はさらにサブミクロン単位の精度が必要になっている。」
 コシブ精密のスリット板は現在、金属膜を蒸着させたガラス板の表面に、原版を重ねて目盛を刻む方法で生産される。

「1ミクロン以下の微細な表面加工が可能な設備を導入しました。」稼働を始めたばかりという、ワゴン車大の装置。この銀色に輝く箱型マシン、荻原社長の案内によると「3億円以上」という。年間売上約10~15億円のコシブ精密にとって「非常に大きな投資」だ。
 この装置のみならず、工場内には1億円を超えるレーザー描画装置など「積極的な投資」が多いことに驚く。トップクラスのシェアを誇るコシブ精密は、なぜ矢継ぎ早に新たな装置を導入しているのだろうか?


「光学目盛彫刻所」からのスタート

 「シェアを獲得するには、常に一歩先に行く技術が必要なんです」と荻原社長。「一歩先行く技術」は、コシブ精密の成長の原動力となっている。

 荻原社長が、現在の専務である実弟とともに起業したのは1964年。上京し光学機器メーカーの職人として働くこと数年、都内のアパートを借りて独立した。コシブ精密の前身は「荻原光学目盛彫刻所」。作業場の窓からは、創業と同じ1964年に開かれた東京オリンピックの五輪旗が見えたという。

手がけていたのは、顕微鏡用のスケール(ものさし)。「拡大鏡を覗きながら、一本一本、ガラスに目盛を書き込んでいくんです。」創業当時は、すべて手作業だったと荻原社長は振り返る。

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いち早く「デジタル化」

 「休んでいたらダメです。次のコトに取り組まなくてはいけない。」
 コシブ精密は、創業当時から新しい技術を積極的に取り入れている。「新しいことはできないか?」と、写真プリント技術を目盛に応用する研究をはじめたり、得意技術を応用して目盛以外の新しい製品づくりに取り組んだりしていった。

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 成長の核となる「ロータリーエンコーダー」に目を付けたのも、「一歩先を」の発想からだった。
 「ものを測るのも、アナログからデジタルに変わっていく兆しがあった」と荻原社長。アメリカで実用化されたばかりの光学式デジタル計測を日本でいち早く取り入れ、国内のライバルに先駆けスリット板の製造を開始。さらに、半導体集積回路と同じ転写技術による製作を開発し、より大量に、より細密にと進化させてきた。
 「一歩先に行く」設備投資こそ、コシブ精密のものづくりの強さのひとつとなっている。

イイものをつくろう!の気持ちが大事

イイものをつくろう!の気持ちが大事

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 中央自動車道・松川インターから河岸段丘を下ることおよそ5分。コシブ精密の工場は、緑に囲まれた伊那谷にある。
 白亜の建物内で働くスタッフはおよそ100人。「ミクロの世界のエキスパート」を標榜する従業員たちが、ガラスの表面処理から洗浄、最終検査までを行う。

 惜しみなく最新鋭の機械を導入する一方で、荻原社長は「機械だけあっても、この技術はマネできない」という。「機械が行うのは製造のいち工程でしかない。品質管理を含め、組み合わせのワザが必要。」さらに、「イイものを作ろうという気持ち、人間性が大事」と、付け加えた。

次の産業を見据え「一歩先」へ

 「お客様である大手メーカーは、よりいいものを出そうとやっている。私たちが部品製造で力を発揮すれば、大手メーカーさんはめちゃくちゃ喜ぶ。私たちはそれで伸びてきた。」
 長年培ってきた現場の卓越した人間の技術と情熱、最新の装置導入が成長の両輪となり、さらに大手メーカーとの共同開発で、線幅ミクロン単位のパターンを月に何十万個レベルで生産することが可能となった。

 「介護ロボットや、血管の中に入り込む手術用ロボットなど、これからロボットの開発には制御装置の高性能化・小型化が欠かせない。より小さく、精度の高いスリット板ができれば用途は広がる。」
 次の時代を見据え、「一歩先行く」ものづくりの挑戦は続く。

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【取材日:2010年6月16日】

企業データ

株式会社コシブ精密 長野工場
長野県下伊那郡松川町元大島2903-33 TEL:0265-36-3400
http://www.koshibu.co.jp/