[サイプラススペシャル]97 水のソリューションを提供する ポンプから燃料電池用センサーまで

長野県下諏訪町

荻原製作所

環境の世紀といわれる21世紀、中でも日々の生活を支え、ものづくりの現場やこれからのエネルギーとして注目されている燃料電池にも深く関わる“水”への関心は高い。創業以来半世紀以上にわたってこの“水”に関わる製品を作り続けている企業が長野県にある。下諏訪町に本社を置く荻原グループ・荻原製作所だ。

主力は小型ポンプ

1500万台を突破-OGIHARAのポンプ

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 「ポンプ生産累計1500万台を突破しました」荻原製作所の製品カタログはこの言葉で始まる。全国で1500万台も使われているこの小型ポンプの生産が荻原製作所で始まったのは1982年のことだ。工業用・農業用・家庭用と様々な場面で使われているポンプだが、荻原の主力は一般家庭のガス・石油給湯機、エコキュートなどの風呂追い炊き用に使われている自吸式ポンプ。今では、戸外に給湯器を置き、水やお湯をモーターの力で循環させ、追いだきをする給湯器は当たり前だが、それまでのものは熱の力で自然に循環する機能のみ、風呂釜は浴室内の浴槽近くに設置するしかなかった。荻原製作所が業界で初めて量産化した追いだき用小型ポンプを使うことで、給湯器の設置場所の制約は解消され、安全性も増した。

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 追いだき用小型ポンプのシェアはもちろん国内トップクラス、荻原雄一常務(39歳)は「金型部門から、設計・生産・部品加工そして加工の設備まで一貫生産、自社で生産している主力事業です」と製品への自信を語る。

モーターとポンプをセットで作る

 1946年、水処理装置の製造で創業した荻原製作所だが、ポンプの開発生産を始めるまでは、家電用のモーター技術を生かした製品も作った。中でも電子レンジのターンテーブル用のモーターは、世界シェア100%で大手を圧倒した時代もあった。しかし、海外との価格競争から、モーターを生かしたポンプの生産へとシフト。モーターと水処理の両方の技術があったからこそできた追いだき用ポンプの製品化量産化である。ポンプの需要は、温水器や給湯器などにも広がり、発展してきた。「モーターとポンプをセットで作っている会社はあまり無いと思いますよ」荻原常務はそのメリットを強調する。

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設計から製品評価まで、一貫生産

設備もラインも自社生産

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 一貫生産の一番の強みは営業も含め、設計から生産まで小回りが利き、量産までのスピードに繋がること。ポンプの基本は、追い炊きをして浴槽に戻すという働きだが、お湯を沸かす能力、沸かす時の音や振動なども耐久性と合わせて大事な要件だ。住宅内の浴槽を置く場所(1階と2階ではポンプの性能は異なる)、その広さや設置の向き、使い方等も様々だ。様々な顧客のニーズをすばやく設計に反映させ、試作品を作り、製品を評価し、生産に直結させる。金型制作・省力化の設備も市場を取り込みながら自社で作り上げる。内製化のメリットを十分に生かしつつ、製品の信頼を築く一貫生産の流れだ。

事業は独立採算、技術はコラボ

 一貫生産といっても、1つ1つは独立の事業という位置付けだ。一般的に採算が難しいとされる金型部門も2004年に分社化した。力を分散化しつつ、部門ごとの独自の発展に期待をかける。しかし、分社化したといっても部門間のコミュニケーションは活発で「技術のコラボレーション」を作り出していると荻原常務は満足そうに語る。「6年前から段階的にやってきた各部門の子会社化ですが、意識を変えるきっかけになり、新しい力が育ってきています。」半世紀以上にわたって培った技術の上に、挑戦への意気込みが加わる。

モーターと組み立ては(株)トキワ電機

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 荻原製作所の主力製品である小型ポンプのモーターの巻き線・加工・組立・検査部門を担当するのが荻原グループ内の(株)トキワ電機である。一貫生産、内製化の言葉の通り、モーターの動力を発生させるステーター・ローター製造フロアでは、一度に薄い金属の板を50枚も積層し、カシメるなどいくつもの作業をこなす省力機や、月間100万台まで生産可能という高速ダイカストのラインが動いている。技術の積み重ねが製品コスト削減の決め手。 巻線工程は、3本のコイルを1つのコアに巻きつける作業だが、巻線を挿入するタイミングと巻線機の動きがぴたりと合って無駄がない。製品の組立は、自社設計・製造の自動ラインだが、モーター部の組み付けから、最終の安全検査まで自動化できるところはすべて自動化し、作業はわずか3~5人で行っている。水漏れの検査は自動エアーリーク検査。完成品検査ではモーター部の騒音を「耳で聞く」というのだそうだ。モーターを起動させるコンデンサをつけ、制動検査、そして出荷と、女性たちの働きが光る。

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水のソリューション

純水を作る(株)ホステック

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 「水に関係した技術を1つ1つ伸ばしていきながら世界に通用する技術をもちたい。」荻原常務は「水のソリューション」を語る。
その一つが、2008年分社化した㈱ホステックだ。OEMで水道水を原料に純水を作る水処理装置を手掛けている。純水とは不純物を取り除き、化学式のH2Oに限りなく近い水のことだが、工業用では半導体や液晶の洗浄に欠かせない。また、病院や研究施設、食品や化粧品にも純水の用途は拡大している。
特に電子工業用洗浄水は今や「超超純水」と呼ばれるほどの高い純度を要求されている。ホステックの製品は、荻原製作所の創業時からの水処理の経験が生き、最適な水質を提供する装置となっている。装置そのもののサイズは卓上サイズから冷蔵庫サイズや畳3~4枚くらいの中型まで、形もボンベ型やキャビネット型など様々、またポンプユニットやろ過するシステムもオプションできるなど、顧客ニーズに応じた純水装置、純水製造システムなのだ。

燃料電池用センサー

 研究開発は下諏訪町にある本社で行っているが、水処理・ポンプの新しい技術の開発には政府機関から開発基金を確保するなど積極的に取り組んできた。今一番新しい取り組みは、燃料電池が発電するために必要な水の状態を検査するセンサーの開発だ。燃料電池はガスなどの燃料と水から水素をつくり、酸素と反応させることで電気と熱を取り出す仕組み。すでに燃料電池用のポンプを販売しているが、他に純水の電気伝導率を調べる電気伝導率センサーさらに配管を流れる水中の気泡検出するセンサーを開発し、燃料電池の分野に参入、新たな売り上げの柱にすべく準備中だ。

 「水を作る」「水を動かす」水のこだわった製品を作り続ける荻原グループの未来への挑戦は続く。

【取材日:2010年10月8日】

企業データ

株式会社 荻原製作所
長野県諏訪郡下諏訪町4717 TEL:0266-27-2215
http://www.ogihara-mfg.co.jp/