[サイプラススペシャル]101 ショーシンの“SS”スピードスプレヤー 長野県唯一の「自動車メーカー」

長野県須坂市

ショーシン

果樹園で活躍する「スピードスプレヤー」
国内屈指の専門メーカーとして業界を牽引

 りんご園に映える、赤い流線型のボディー。果樹園を一気に消毒する「スピードスプレヤー」は農家の強い味方だ。
 国内屈指の専門メーカー・須坂市のショーシンがつくりだすスピードスプレヤーは、ボディーに、羽根に、足回りに、「世界初」のすごい技術が詰まっている。

真っ赤なスピードスプレヤーが走る

全部、一貫してやっている

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 「歯車のひとつひとつから、車体の組み立てまで、全部ここでつくっています。」
 長野電鉄の北須坂駅にほど近い工業団地内にあるショーシンの本社工場では、年間およそ800台のスピードスプレヤー(SS)がつくられ、全国の果樹園で活躍している。
 「全部、一貫してやっている」山岸昭信会長が語るショーシンの強みは、一貫生産だ。デザイン・設計からはじまり、部品の削り出し、最終製品の組み立てはもちろん、販売やアフターサービスもすべてを自社内で行う。

世界初「自走式」SSを開発

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 緑の木々の中を、全長4.4mの真っ赤な車体が近づいてきた。後ろには白煙のような細かい霧。噴霧方向もきめ細かく制御され、ムダなく一気に果樹園の消毒ができるという。「撮影用に...」と、試験用農園内で実際に走らせてもらった。

 スピードスプレヤーは、果樹園やゴルフ場で薬剤の散布を行う特殊自動車。1957年、人が乗り込むタイプの「自走式」をいち早く開発したのがショーシンだ。
 3輪や4輪、屋根のあるなしなどショーシンでつくられるマシンは25種類。先端はハンドルが付いた運転席、間には500~1000リットルの薬液を入れる大型タンク、背後にはジェット機の吹き出し口のようなスタイル。霧状に薬液を噴霧するノズルと、大型扇風機のような羽根(ファン)が特徴的なその姿は、ロケットか、近未来のクルマのように見える。車高が低いのは果樹の枝にかからないため、赤いペイントは果樹園でも目立つため、など機能美を備えたカタチだ。

いちばん厄介な作業「消毒」を自動化

 半年で13回。
 リンゴ栽培に必要な消毒の回数だ。消費者が求めるおいしいリンゴをつくるためには、ほぼ2週間に1回の割合で防除が必要となるという。「消毒が、いちばん厄介な作業です」と、山岸会長が言うように、カッパを着こみ、タンクを背負い、朝早くから汗まみれになって行わなくてはならない防除作業は、果樹農家の大きな負担となる。ここで活躍するのがスピードスプレヤーだ。価格帯はおよそ200万円~800万円と、決して安くない。それでも農家にとって導入のメリットは大きい。

 リンゴだけでなく、モモやミカンなど他の果樹栽培でも活躍するスピードスプレヤー。ショーシンは長野県須坂市の他、青森、山形、福島、熊本と果樹栽培が盛んな地域へ支店を展開し、ニッポンの農業を支えている。

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「世界初」のスゴイ技術がつまったSS

潜水艦の原理「静音湾曲ファン」

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 「農業も、時代とともに変わっている。」と、山岸会長。
 周りを気にせず消毒できたのは過去の話、果樹園も住宅地に囲まれるようになっている現在は「薬液が畑の外に飛ばないようにするのはもちろん、音がうるさい!と苦情が出ないように細心の注意が必要になっている」という。時代の変化、農家のニーズの変化に対応し、「かゆい所に手が届く」がショーシンの技術力と山岸会長は自信を示す。

 例えば、空気を取り込む後ろの羽根(ファン)。12枚の羽根をよく見ると、ゆるやかにカーブしているのが分かる。「この湾曲がポイント。静かだし、低燃費を実現しました。」会長はニヤリと笑い、「潜水艦のスクリューの原理です。」ショーシンの特許技術だ。

「世界初」の技術で全国シェア・アップ

 特許は、湾曲ファンだけでない。
 世界で初めて人が乗り込む自走式のスピードスプレヤーを開発したショーシンは、他社に先駆けた新技術を搭載。たゆまぬ研究開発によって全国シェアを高めてきた。4輪駆動や、電子制御の4WS、コックピットのような「キャビン式」を導入したのもショーシンが日本初だ。

 「使ってみて、ここをこう直してもらいたい。こういうふうに使い勝手がよくなれば...という希望が、販売やメンテナンスの現場から吸い上げられます。それをまた設計やデザイン、製造の現場で新しい製品に織り込んでいきます。」

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長野県唯一の「自動車メーカー」

市場規模は4分の1だが...

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 「市場規模は、4分の1になってしまいました。」
 いち企業の問題、というよりニッポンが抱える問題としての農業の未来。スピードスプレヤーの全国販売台数は、1992年の年間約6000台をピークに下降線をたどり、2009年はわずか1532台へ激減。ショーシンも絶頂期には年間1200台ほど生産していた。

 しかし、山岸会長は悲観的でない。「上場企業さんとは、そもそも考え方が違うんです。」確かに生産台数は減っているが、市場シェアは確実に伸ばしている。
 「かつては15社ぐらいの競合する会社がひしめき合っていたが、どんどんライバルは減って今は3社。縮小する市場だから、新規参入も考えにくい。果樹農家がゼロになるわけではないから、農家が求めるものをつくっていけばきちんと利益をあげられる。」

EV(電気自動車)元年 新たな分野へ果敢に挑戦

 「長野県では唯一の自動車メーカーとして、いろいろな車両がつくれると思っています。」
 スピードスプレヤーは、農業用であると同時に、ディーゼルエンジンで公道も走れる「クルマ」だ。ショーシンはかつて油圧キャタピラーで動く降雪機(スノーマシン)の製造販売を行っていた。さらに近年、高い果樹の剪定や収穫を行える電動シリンダーで荷台が上下する電気自動車も開発した。

 「これからは農業機械に関わらず、さらにいろいろなものをつくっていきたい」と、山岸会長。ハイブリッドや電気自動車など新型のクルマが続々と開発・販売される昨今。農家の声をききながら、他者に先駆けた自社開発を続けるショーシンは、「長野県唯一の自動車メーカー」として、新たな挑戦を続ける。

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【取材日:2010年11月4日】

企業データ

株式会社ショーシン
長野県須坂市小河原町2156 TEL:026-245-1611
http://www.shoshin-ss.co.jp/