[サイプラススペシャル]154 工業製品の精度でつくる「大人向け」ホビー クルマから「アキバ系」へ

長野県諏訪市

ピーエムオフィスエー

アキバ系に大人気のプラモやフィギュア
「下請から脱却し、完成品を作りたかった」金型メーカーの挑戦

アニメの美少女キャラクターや、ゲームに登場するロボット…
プラスチック製の精密な人形・フィギュアをつくっているのは諏訪市のピーエムオフィスエー。
1つおよそ7000円…と子どもには高めの値段設定だが、「アキバ系」と呼ばれるファンからは大人気。2009年から独自ブランドで販売を開始、昨年の売り上げは1億円に届く勢いだ。

自動車向け金型設計から「アキバ系」へ。諏訪の地で培った精密加工技術を新しい分野で活かす。
「下請から脱却し、完成品で勝負したかった」という、ものづくり企業の挑戦を追う。

「完成品メーカーになりたい!」夢を叶える

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プラスチック加工の要となる「金型」

「本業は、金型の設計や製造です。」
山口晃社長が手にする円筒形の金属の塊は、「金型」と呼ばれる金属の型だ。
クルマの部品や家電製品など、私たちの身の回のプラスチック製品は、この金型でつくられている。プラスチック部品の量産に欠かせない金型は、部品の精度に直接影響する、加工の要だ。


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本業は金型設計・製造

大手メーカーの金型設計者だった山口社長が2000年に立ち上げたピーエムオフィスエーの「本業」は、金型の設計・製造や電子機器などの設計だ。2006年に完成した諏訪インター近くの本社では、2階のパソコンオフィスで設計され、1階では職人たちの手によって実際の金型が形つくられていく。
昨年の売り上げは全体でおよそ3億円。今でも半分以上は「本業」が稼ぎだす。「自転車ライトなどのアイテムづくりは、金型の設計だけでなくデザインから手掛けています。」

クルマからアキバへ。諏訪のものづくり企業は、なぜまったくの異分野へ挑戦したのだろうか?


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リーマンショックが転機

「2008年秋のリーマンショックで、金型関係の売上げが激減しました。メーカーからの価格が一気に引き下げられてしまったのです。その後、減税効果などで持ち直すのですが、部品作りは金型さえも、どんどん安い海外へと流れてしまった。」
「現在では、クルマ関係の部品はほとんどゼロ」と、山口社長は笑う。

「もともとメーカーになりたいという夢がありました。リーマンショックの時、いろいろな業種を調べていましてアキバ系・オタク系など業種は売上が好調だったのです。で、フィギュア・プラモデルの製作販売という仕事を始めました。」


工業製品の精度でおもちゃをつくる

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「萌え」がなければ売れない

上目づかいではにかむ美少女に、指の関節一つまで稼働するロボット。
2階ミーティングルームのショーケースには、たくさんのフィギュアやプラモデルが並ぶ。すべて、ピーエムオフィスエーが自社ブランド「PLUM(プラム)」で売り出している商品だ。

「趣味の世界...これはこれで、とてもシビアです」と、山口社長。
たとえば、色。「フィギュア1体で40~70色」という説明通り、同じ色に見えるスカートでも、よく見ると折り目や影の部分など何種類かの色が使われている。
「『萌え』要素がなくては、ぜったいに売れません。参入してからしばらくは本当に苦労した。在庫の山ですよ。」


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趣味の世界...精度に妥協は許されない

「精度が悪ければ、見向きもされない。」
アニメのキャラクターやアイドルに対して、ある種の強い好意などの感情を表す若者言葉「萌え」。このファンの心をつかむため、美少女の表情やしぐさなど、精度に妥協は許されない。
「工業部品、とくに自動車部品やカメラ部品、携帯電話等で培った精密な技術をプラモデルづくりに活かしています。いわば、工業製品の精度でおもちゃをつくっているんです。」世界に誇る精密なものづくりの技術。プラモデル、フィギュアの金型に、こうした職人の技が活かされている。


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理に適ったプラモデルの金型

2人でスタートした会社も、現在の従業員は22人。
「誤解されると困るんですが、ロボットも美少女も私の趣味じゃないですよ」と笑う山口社長。実は、金型設計とフィギュアやプラモデル製造の2本柱は、理に適った経営だ。

「そもそも金型は一品もの。毎月一定の仕事があるわけがなく、ピークが100だとすると20くらいしか仕事がない月もあるんです。」
従業員の給料はもちろん、金型製造のためには1台数千万円もする機械が必要だ。「休ませておくわけにいかないから、空いている時間は他の商品をつくる。とくにプラモデルの金型は他の受注製品にくらべサイズが大きいので、その分長い時間、機械を動かし続けなければいけない。だからフル稼働できるんです。」


「萌えキャラ」で夢は地域活性化

つくるのは「ひと」、人材が大事な仕事

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「金型の受注が減る1月2月は、プラモデルの設計のピークです。」
男女6人がパソコンに向かう本社2階で、フィギュアやプラモデルは設計される。
パソコン画面には映し出された、お城の瓦屋根。「今、プラモデルにしようとしている上田城です。」実際に足を運び撮影してきた写真などを参考に、設計段階からより細部にこだわっている。今年の春の販売を目指す。

別の1室には、まだ歩き始めたばかりの子どもの姿。奥では母親がパソコンに向かう姿も見える。「彼女は、設計部門のエース。環境さえあれば、子どもが生まれても続けられる。人さえ集めればできる仕事だけに、その人材を集めるのが重要なんです。」

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オリジナルキャラクターで地域活性化!

「オリジナルキャラクターをつくって、地域の活性化につなげたい。」
昨年夏、地元の名所・高島城のプラモデルを発売。お城に住むお姫様をイメージしたオリジナルキャラクター「諏訪姫」も一緒だ。
「高速のサービスエリアでも販売しているが、これが好調。」高さ6cmのミニフィギュアは、ミニスカートに着物という現代的なデザインの「萌え」要素が人気の秘訣だという。

「地域ごとにオリジナルのキャラクターやフィギュアをつくりたいですね。ゆるキャラもいいけれど、ちゃんと『萌え』要素を織り込んで、精度の高い商品でファンの心をつかむことができれば、これ以上ない地域のPRになると思う。このキャラクターたちがケータイのゲームやテレビにも登場すれば...、いろいろやっていきたいです。」

諏訪で培った技術を、まったく異なる分野で活かすピーエムオフィスエー。工業製品の精度が、ファンの心をつかむ。


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【取材日:2011年12月15日】

企業データ

株式会社ピーエムオフィスエー
長野県諏訪市沖田町3-22-1 TEL:0266-54-5556  
http://www.pmoa.co.jp/