[サイプラススペシャル]155 医療器具で「負担の少ない」手術を実現 医療分野に生きる「諏訪のものづくり」

長野県岡谷市

リバー精工

おそらく世界最小…刃渡り2mmの手術用ハサミ
大手メーカーも一目置く、医用機器製造の先端企業

「おそらく、コレ、世界最小のハサミです。」 管の先をよく見ると…クワガタムシの角のような刃渡り2mmの極小ハサミ。大腸にできた腫瘍を切り取る医療用具(処置具)だ。 同じく先端部分の投げ輪のようなワイヤは「スネア」と呼ばれる医療器具。管の先から出たり入ったりするワイヤをポリープの根元にひっかけ、電流を流して焼き切る。

手術に使われる様々な医療器具をつくるのは、岡谷市のリバー精工。大手医療機器メーカーも一目置く、医療機器の製造の先進企業だ。 リバー精工は、グループ4社で従業員は90人という規模にも関わらず、去年の売上は12億円と、5年前の4倍に伸びた。 有望な成長分野といわれながら、様々な規制が壁として立ちはだかる「医療分野」。大手企業がしのぎを削る分野で、小さな長野県企業・リバー精工は、なぜ成功することができたのか?

医療分野で生きる「素人の発想」

固定観念に縛られない発想

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細く急な坂道を、民家の間を縫うように上っていくと、リバー精工の本社工場がとつぜん現れる。眼下には、諏訪湖を源流とする天竜川。ここで、最先端の医療現場で命を救う医療用具がつくられている。

「固定観念に縛られない、『素人の発想』を開発に活かしたからこそ成功したと思っています。」リバー精工代表取締役小口祐二さんは、医療分野での成功は「素人の発想」だという。医療のプロ=医師に対して、ものづくりの技術者である自分たちは、「医療の素人」だというのだ。
たとえば、超小型のハサミの歯先をよく見ると、先端が反り返って曲がっている。内臓の壁面にできた患部の切除を簡単にする工夫だ。
また、管の中にはワイヤが仕込んであり、手元をひねることでハサミが回転するのだが、いくら管が複雑に曲がっていても回転によってよじれることはないよう特殊な細工が施されている。


医療は「素人」、ものづくりは「プロ」

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新製品を開発する際、機能性を第一に考え、医療器具の枠にとらわれず着想を得る。そんな柔軟性こそ「素人の発想」であり、「ものづくりのプロ」であるリバー精工の大きな強みだ。

現場で治療に携わる医師との共同開発が、リバー精工が得意とするスタイル。
刃渡り2mmの極小ハサミも、従来は内視鏡と別々の道具であったものを、一体化。「内視鏡は内視鏡、メスはメス」という常識を捨てることで、内視鏡の先端部分からハサミが出入りするように改良した。
電気を飛ばすため2つの電極が必要な「スネア」は、もともとは体の外に別の大型装置が必要だった。しかし、輪投げの輪の先端部分に2つの電極をつくることで一体化し、小型でより扱いやすくなるよう工夫を施した。
大手医療機器メーカーにOEM(相手先ブランドによる生産)供給しており、国内シェアは30%以上にまで成長した。


「医師が使いやすい」医療器具をつくる

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「体や、進行状況などにより、患部は全部違います。」
創業者であり現在リバー精工の会長を務める西村幸さんは、今も現場に立ち続ける、現役の技術者だ。
「医師が『本当にこの処置具でいいのか?』と疑問を持ってやっていたら、おかしい話ですよね。処置具に合わせて、治療をするのは本末転倒。医師もストレスになります。」

「患部に合わせた処置具、医師がより使いやすい処置具を、我々は提供したい。」とくにこだわるのは医師の「使いやすさ」。だからこそ、リバー精工の医療機器業界における存在感は大きい。医師や医療機器メーカーの幹部が駆け込み寺として訪れ、現在も10件以上の開発案件を抱えているという。

「諏訪のものづくりの技」が生きる現場

8割は「人の手」でつくられる

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「我々がやっているのはニッチ。患者の数もかなり少ない。」
西村幸会長が言うように、医療分野での成功要因は「素人の発想」と、大手企業が手を出しにくいニッチ(すき間)な領域を攻めていることにある。

「どうしても大量生産ができないので、結局、手作りになる。」
内視鏡手術に欠かせない小さな医療用具。顕微鏡をのぞきながら、指先や爪の先までも使う繊細な加工作業は、8割以上が人の手によるもので、社員の「技術力」の高さが不可欠だ。どのように社員の技術力を高めているのだろうか?


高い技術力を維持するために「全員が正社員」

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「全員が正社員です。」
西村会長の言葉通り、リバー精工にはパート従業員はいない。組立や検査などは、女性のパート従業員に頼ることが多い製造業からすると、珍しいスタイルだ。ひとつひとつが命を救う医療器具。高い技術力の背景には、社員ひとりひとりの責任感がある。
「正社員という名前や、重さが、責任感につながる。全員が責任感をもって仕事に従事しているところが一番の強みです。」

新製品のアイデアも、開発担当者だけでなく、管理部門や製造現場まで全員が出し合う。「仕事に境界線はないし、肩書きも関係ない」と強調する西村会長。実際に、西村会長自身も小口社長も、担当は現場に立ち、製造や開発を担当している。
「社長だからって、机で座って待っていても何も生まれない。」西村会長は笑う。

役人から職人へ

リバー精工は1988年に、西村会長がたった1人で立ち上げた会社だ。
「もともとものづくり『職人』でなく、『役人』だった。」大学では倫理学を専攻、卒業後は国家公務員試験に合格し、法務省に勤務する。
「役所の雰囲気が合わなくて...」他人にはできないものづくりの仕事で認められたいという想いから、28歳で地元の岡谷市に戻り、自宅で妻とふたりカメラのレンズ部品を組み立てはじめた。

1年ほどして、知人の助けを借りながら諏訪市で内視鏡の医療器具をつくっていた工場ではたらきはじめ、およそ10年かけてスネアなど400種近い内視鏡用医療器具をつくる技術を身に付けたのが、リバー精工の原点だ。

小河を集めて大河を為す

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5つのがんと闘う

「私の場合、直腸がんに大腸がん、胃がんと胆のうがんと、それから肝臓がんだった。」 西村会長は4年前、がんを宣告された。

「宣告されると、目の前が真っ暗になる。」
最近の製品開発の背景には、西村会長の経験が活かされている。「何とか、次の病気の人たちを助けたいと思うじゃないですか。」
「患者負担が少なく、先生たちのストレスがかからないものを作っていきたいというのが私の夢です。」


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現在開発中の「ファイバースコープ内視鏡」

自らががんと闘いながらも、新製品の開発への熱意はまったく衰えない西村会長。現在開発中の「ファイバースコープ内視鏡」も、自身の経験が活かされている。
腸などの患部を見るため、髪の毛ほどの太さのファイバーケーブルを使用している。たとえば、注射針を刺す要領で、体の内部の様子を見ることができる。患者の負担も少ない。

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「手術後の経過をみるために毎回CTスキャン受けていたら、レントゲンは放射線の原理だから、私も、医師もすごい被ばく量になってしまう。どうすれば簡単に見えないか?と考え、注射針の先からでも体の中の様子が見られるような仕組みを考えた。」
映像をより鮮明に、より視野を広くするなど、大学などと共同で研究を進めるファイバースコープ。さらに、映像をiPadなどの情報端末で見られるように改良した。
「今までの手術の方法を見せられたら、怖くて手術したくなくなっちう。だから、こういう風にやればいいはずだって、『素人の発想』で開発する。それを医者に持って行ってみて、いっしょに使い方を考えるんです。」

黒子として世の中を支える会社

「小河を集めて大河を為す。大海に出て天を模す。」
眼下を流れる天竜川のほかに、リバー精工の社名には「ひとびとの力を結集して大きな仕事をし、世の中を支える黒子になる」という西村会長の決意が込められている。

「いままで世界になかった、まったく新しい方法を、手術器具の開発という立場から、先生たちと一緒に模索しながら発信したい。世界初をつくっていきたいと思っています。」
心臓治療用のカテーテルや内視鏡など、200以上の医療用具を開発してきた、リバー精工。小さくとも、黒子として世界中の多くの命を救う、メイドインナガノのものづくり。諏訪の地で培われた技術が、医療の分野でも活躍している。

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【取材日:2011年12月19日】

企業データ

有限会社リバー精工 長野県岡谷市川岸上2丁目29-20 TEL:0266-24-3678
http://www.river-group.co.jp/index.htm