[サイプラススペシャル]163 人と地域と農業の元気を創る最先端カンパニー 無添加・無農薬・無漂白のもやしで健康を

長野県駒ヶ根市

サラダコスモ

しゃきしゃきした歯触りと高い栄養価、くせのない味や色、今や通年野菜となった『もやし』は安定した価格とともに主婦には魅力的な料理の素材だ。野菜工場というと最近の事例と思われているが、もやしの工場生産が始まったのは第2次世界大戦後、野菜工場としての歴史は古い。中津川市に本社を置くサラダコスモがもやしの製造を始めたのは1955年、後発ながらも業界トップクラスの売り上げを誇る。「未来の“野菜作り農業”を支えたい」。もやしから始めた野菜工場にかける中田智洋社長(61才)は熱く語る。

無漂白・無添加のもやし栽培への挑戦

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サラダコスモの創業は1945年、前身の中田商店は、夏はラムネ製造、冬期間のみ副業としてもやしを生産していた。創業者の父が病に倒れ、跡を継いだ中田社長は、夏しか売れないラムネ製造をやめ、もやしの生産専業に業態を転換した。そしてこのころは漂白剤や保存料を使うのが当たり前であったもやしの栽培方法に疑問を持ち、消費者の健康を考え漂白剤や保存料を使わないもやし栽培に挑戦する。「安全・安心」を掲げる今日であれば当たり前の栽培方法だが、当時のもやし製造業界からすれば、無漂白無添加の生産方法は、突出したやり方、文字通りの「挑戦」であったという。経営的にも苦しい時期を経験したが、「ここ25年は赤字決算をすることなく今日を迎えることができました」と穏やかに語る中田社長の表情から「この挑戦は、正しかった」という思いが伝わってきた。

もやしの決め手は水と種と流通

1日使う水は2000トン

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岐阜県中津川出身の中田社長が長野県駒ヶ根市にもやし工場を建設したのは1986年、一番の決め手は「水」だ。新鮮なもやしを生産するために不可欠な水、しかもミネラルをたっぷり含んだ無菌の地下水が手に入り、中央自動車道駒ヶ根ICにも近く、交通至便なこの地はもやし工場には最も適した立地といえる。
駒ヶ根市赤穂にあるサラダコスモ信州第2工場は、地下150メートルから汲み上げる中央アルプスの地下水を使い、緑豆(りょくとう)もやしを専門に栽培している。生産される緑豆もやしの量は、1日平均40t(最大60tの生産能力を持つ)だが、使われる水の量は1日に最大2000t。半端な量ではない。


栽培方法だけではなく種子にも

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もやし生産のもう一つのポイントは種である緑豆。信州第2工場は天竜川の河岸段丘の傾斜を利用した建物で一番奥に種子倉庫がある。倉庫内で15℃に管理されている原料の緑豆は、中国で契約栽培された日本の有機JAS認定の種子だ(一部非有機品あり)。サラダコスモでは、無漂白・無添加という栽培方法だけではなく、種子も独自に開発、栽培したものを使っている。店頭の商品からのトーレーサビリティはもちろん可能だ。「さらに安心安全なもやしを店頭に並べたい」。もやし栽培を始めたときの信念は今も変わらない。「種子の品質はもやしの品質に直結、傷のない良質な原料を手に入れることが良いもやしの生産に欠かせません」。種から始まる安心安全なもやし栽培、粒そろいの緑豆が信州第2工場の生産責任者、猪野工場長の掌からこぼれた。


与えるのは水のみ

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専用の白衣と帽子、マスクをつけて用意された長靴を履く。エアーシャワーを浴び、消毒液の入った水槽を踏み、いよいよ栽培工場に足を踏み入れる。
種子の洗浄から始まるもやし栽培。種子は微温湯で洗浄され、栽培用器にいれられる。この栽培容器はステンレス製で網状の二重底、高さが1.5メートルある。発芽作業の後この栽培容器は完全遮光された栽培室内に運ばれる。栽培室内で3時間から6時間ごとに上からシャワーで水やりを行う。1週間から10日間、種子は水のみを与えられ、もやしとなる。緑豆90キロからおおよそ1tのもやしができる。発芽によって栄養素も変化する。「もやし生産で一番の大事なことは農産物なので安定した品質で出荷し続けることです」。工場生産とはいえ野菜は生物(なまもの)、徹底した品質管理が、業績を支える。


5℃のコールドチェーン

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栽培室から重さ1tのもやしが詰まった栽培用器がフォークリフトで運び出される。芽が一斉に上に向かって伸びている。"もやし"である。洗浄が始まる。豆殻をとり、ここでも中央アルプスの地下水を用い洗浄を行う。水を切り計量、金属探知機による異物チェックを経て包装される。すべて自動化されたラインだ。パック詰めは鮮度を保つためにもやしがつぶれない程度に脱気・圧縮する。栽培室から搬出された後の洗浄からパックまでは最短10分、40tのパック詰めが午前中で終わることもあるという。


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包装・梱包スペースの隣は一時保管の倉庫と搬出エリアだ。冷蔵コンテナを積んだトラックが横付けされ、工場内から外気に触れることなく、関東・中京圏へ出荷されていく。 賞味期限は3日間というもやしを、生産現場から鮮度を保ちいかに早く、消費者に届けることができるか、流通販売システムもサラダコスモは自前で確立している。もやしの保管最適温度は5℃、中田社長は「安心・安全」とともに工場から店頭まで途切れることがないこの5℃のコールドチェーンが大事と語る。店頭価格は安いが、生産から流通販売までコスト管理されたもやしビジネスは、次の分野に大きく羽ばたき始めている。

世界に貢献できるビジネスに

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もやしづくりのノウハウをそのまま使って

サラダコスモが今力を入れているのはかいわれ大根に代表されるスプラウト(新芽野菜)の生産。企業のリスク分散の一つとしてもやしづくりのノウハウをそのまま使って始めた事業だ。ブロッコリーのスプラウトやかいわれ大根、豆苗(とうみょう=エンドウの新芽)など、10種類以上が店頭に並ぶ。特にヨーロッパでは一般的に食べられているちこりの栽培は、日本で初の栽培ということもあり特に力がはいる。その拠点は2006年中津川インターチェンジのすぐ近くに開設した教育型観光生産施設「ちこり村」だ。ちこりの水耕栽培の工場見学はもちろんのこと、店頭にはヨーロッパでは廃棄されるちこり芋を有効活用した焼酎やお茶、お菓子などが並ぶ。併設されているバーバーズレストランには、文字通り地元のおばちゃんたちが作るちこりや地元の農産物を使ったメニューが並ぶ。2011年には年間26万人が訪れており、一大観光スポットに成長している。


夢は3つの元気

中田社長はちこり村を開設した理由をこう説明した。
「これまで輸入野菜であったちこりを国産化することで、日本の食糧自給率が上がる。」「ちこりは水耕栽培で育てるが、原料のちこり芋を育てるのは畑、中津川をはじめとした休耕田・中山間地の畑を利用することで地域が活性化する。」「更に60歳以上が人口の3分の1を超える中津川に働く場を提供したい。(実際にちこり村では60歳以上の方々の雇用に積極的だ)」「ちこり村で扱う商品はすべて地元のもの。全国から訪れるお客さんにこの町の産品を買ってもらうことで町が元気になる。」中田社長が目指すはサラダコスモ一社の成長だけではない。日本の農業の元気・高齢者の元気・地域の元気だ。

「もやしは可能性を秘めた生産物です。ハイテク技術を使った野菜工場で、農業日本は世界に貢献できるビジネスになります」。中田社長の挑戦は続く。

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【取材日:2012年2月28日】

企業データ

株式会社サラダコスモ
信州第2工場 長野県駒ヶ根市赤穂330-33 TEL:0265-83-7211
http://www.saladcosmo.co.jp/