[サイプラススペシャル]204 ナノレベルで新素材を開発!最新「めっき」研究 信大工学部のものづくり⑪

長野県長野市

信州大学工学部教授 新井進

次世代ディスプレイから「超長持ち」の電池まで
エレクトロニクス産業に欠かせない「めっき」

 金属の表面を、美しく加工する「めっき」。装飾やさび止めなどで古くから使われてきた表面加工技術ですが、実はこの「めっき」、次世代ディスプレイや未来の電池など、最新エレクトロニクス産業に欠かせない技術でもあるんです。

 【特集】信大工学部のスゴい!ものづくり。今回ご紹介するのは、物質工学科の新井進先生。カーボンナノチューブをめっきすることで驚きの新素材が生まれるかも知れません。

未来の素材をつくる「めっき」

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古くて新しい!めっきは最新テクノジーに直結

 「未来の素材をつくるカギ!それがめっきです。」
 長野市若里信大工学部キャンパス、物質工学科校舎の1階にある新井先生の研究室で、学生たちはフラスコに入った紫色の液体につけられた金属板を真剣に見つめています。彼らの研究テーマは「めっき」です。

 「めっきは古くからある技術ですが、わたしたちのめっき技術は、素材にあたらしい機能や特性を与えることができます。」研究の指導にあたる、新井進先生。
 奈良の大仏の金めっきのように、物質の表面に金や銅など別の金属の薄膜で覆うめっきは、古くからある表面加工です。しかし、信大工学部のめっき研究は最新テクノロジー分野に直結するとの事。
 色とりどりの液体・めっき液から生まれる、めっき。いったいどんなスゴい技術なのでしょうか?


「膜」でなく、ナノレベルでは「金属素材」

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 「めっきと聞けば薄い金属の膜をイメージすると思いますが、それは人間の目で見た場合。たとえばアリの目線、さらにナノレベルで見れば、めっき膜は充分な厚さを持つ金属素材です。」と、新井先生。
 めっきはすでに集積回路やプリント基板の配線形成や電子部品の組み立てなど、エレクトロニクス産業になくてはならない技術として、広く活用されています。


注目の新素材・カーボンナノチューブをめっきする!

 めっきの可能性は、現在進行形の技術だけではありません。これまで世の中になかった新しい機能をもった素材開発の可能性を秘めています。
 その一つが、新井先生の研究テーマでもある、注目の新素材・カーボンナノチューブを活用した「カーボンナノチューブ複合めっき」。

 ご存じ、信大工学部のカーボンナノチューブは半導体や燃料電池、光学機器に応用が期待される新素材で、電気を流れやすくしたり、熱伝導率を高めたり、素材の強度を増すなどさまざまな特性に期待が高まっています。

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スゴいぞ!「カーボンナノチューブ複合めっき」

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めっき液から自分たちで作る

 夢の素材ともいえるカーボンナノチューブ。実用化に欠かせないのが、めっきです。
 「カーボンナノチューブというのは、砂鉄のような粉末です。燃料電池などに使う場合、カーボンナノチューブを混ぜて均一にめっきします。」と、工学部4年の飯室敬太さん。なかでも難しいのが、ムラなく均一にめっきすることです。


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 研究を担当する修士1年福岡良介さん。「均一につけるためにはめっき液から作る必要があります。そのためこちらのようにきちんとめっき液をつくっています。」
 めっきの中で重要なのが、めっきをするためのめっき液です。その成分は通常明らかにされておらず、めっき液専門業者から購入するのが一般的ですが、新井先生の研究室では、学生たちがめっき液を独自に調製し、その成分の役割や反応機構を明らかにした上で、めっき膜を作製しています。


次世代ディスプレイに活用

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 カーボンナノチューブ複合めっきは、どんなスゴい研究なのでしょうか?
 「こちらをご覧ください。」新井先生が用意した、実験のVTR。カーボンナノチューブをめっきした特殊な膜に電気を流すと、明るく輝きました。「まだ実験の段階ですが、カーボンナノチューブ複合めっきは、次世代ディスプレイへの活用が期待されます。」

 液晶やプラズマ、最近では有機ELと進化をつつけるテレビ画面・ディスプレイ。より省電力で画質に優れるディスプレイとして「フィールドエミッションディスプレイ」が次世代ディスプレイとして期待されています。
 フィールドエミッションディスプレイは、電子放出源から電子が放出され、その電子が蛍光体を発光させます。カーボンナノチューブ複合めっき膜は、この次世代ディスプレイの電子放出源に活用されるといいます。


次世代電池にも活用!

 次世代ディスプレイだけではありません。「カーボンナノチューブ複合めっきによる次世代リチウム電池材料にも活用されます」と新井先生。

  現在、スマートフォンやハイブリッドカーやEV(電気自動車)に欠かせないリチウムイオン電池。この電池の容量が更に大きくなれば、「超長持ち」するスマートフォンや、EVの弱点とされる走行距離延長が可能です。
 「超長持ち」の大容量電池を開発するため、様々な電極材料が検討されていますが、充電を繰り返すと徐々に劣化してしまいます。ここで登場するのがカーボンナノチューブ複合めっき。新井研究室では、「耐久性」に優れる次世代の大容量リチウムイオン電池材料を開発しています。

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ものづくりの可能性を広げる!めっき研究

カーボンナノチューブだけじゃない!

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 「自分がほしかった結果が出た時というのが一番楽しい」と、学部4年の植田美代加さん。
 新井研究室ではカーボンナノチューブ複合めっき以外にも様々なめっきの研究をしています。例えばめっき膜に熱伝導性に優れるダイヤモンド粒子を複合させたダイヤモンド複合めっき。電子機器やEVなどの高性能放熱板などへの応用が可能になります。

実用化に向け、企業と共同研究

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 めっき研究は、民間企業も注目しています。新井先生は、これまで25の企業(県内12、県外13)と、89件もの共同研究を行い、高級オーディオ向け機器など、一部商品化した技術もあります。
 インドネシア出身の学部4年アリフ・リチ・クルニアさんも「実用化に向けて企業と一緒に研究することが楽しみ。」と期待を膨らませます。


夢は「世の中に役立つ素材」づくり

 「めっきというのはまさにナノナノテクノロジー。様々な新材料を作れる可能性があります。世の中に役立つ素材をつくっていくのが私の夢です。」と、語る新井先生。
 ナノレベルで新素材を開発する信大工学部新井進のめっき研究は、ものづくりの可能性を広げます。

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【取材日:2012年12月14日】

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