[サイプラススペシャル]242 多品種少量コネクターで「圧倒的な短納期」を実現 小さな分野でもNO.1にこだわる!

長野県安曇野市

本多通信工業

「この分野ならHTKに限る!」のコネクターづくり
通常1か月の納期をわずか1週間に短縮!?

「『この分野ならHTKに限る』そう言ってもらえるような特定の分野で強い商品、コネクターをいくつもつくっていきたい。」
 国内唯一の生産拠点が信州・安曇野市にある東証2部上場でコネクター製造の本多通信工業(HTK)は、注文から商品が届くまで通常は1か月かかる納期をわずか1週間に短縮する「1weekデリバリー」と呼ばれるサービスをはじめた。
 いったいどうやって、納期の短縮を実現したのだろうか?
 小さな分野であってもNo.1にこだわり、多品種少量のコネクターづくりの強みをさらに伸ばす本多通信工業の「納期1週間」のカギを握るのは、メイドイン信州にあった。

「No.1」にこだわる多品種コネクター

10人力の「多関節ロボット」

 「このロボットは10人分のシゴトを1台でこなしています。言い換えれば、10人力です。」新入社員の登地秀子さんに案内されたのは、松本工場2階の作業場奥に配置された多関節ロボット。透明なプラスチックケースの中では高さ1mほどのロボットアーム4台が、きびきびと動いていた。ロボットたちがつくっているのはデジタル機器などの回路をつなぐ電子部品「コネクター」だ。

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 本多通信工業は、デジカメやプロジェクター、光ファイバー、産業用制御装置などのコネクター分野でNo.1の実績を誇り、国内唯一の生産拠点である安曇野市にある松本工場だけで200人、世界で1000人が働いている。「多品種少量の分野でもNo.1を目指していきます。」多関節ロボットを前に登地さんは、新人らしいフレッシュな笑顔で元気にそう語った。

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2位じゃだめ!

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 「中規模のコネクターメーカーですので、この分野なら本多通信に限ると言っていただけるようなNo.1分野、特徴を持たないとダメなんです。」本多通信工業代表取締役社長佐谷紳一郎さんは、関西なまりの言葉で「No.1でなければ、だめ」とはっきり語る。
 「No.1とNo.2では、そりゃ天と地ほどの差がある。No.1は信頼の証でもあるし、シェアが高いということはコスト面からも有利。中規模メーカーだからこそNo.1にこだわらないといけない。」

 本多通信工業は売上およそ140億円、6億円以上の利益をあげる。今でこそ収益面でも健全なものづくり企業だが、数年前まで厳しい状況が続いていた。2007年から3年連続減収赤字拡大が続き、2009年の売上は101億、5億円以上の赤字を抱えていた。 2010年社長に就任した佐谷社長が取り組んだのは、構造改革による黒字体質への転換であり、中でも力を入れたのは「No.1にこだわった」商品作りだった。

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No.1にこだわりV字回復

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  「社名に『通信』が入っているように、もともとは電話交換機用のコネクター作りが強みで、通信分野は現在でも主軸となっています。パソコンやデジカメで使われるSDカードの読み取り機用のコネクターなども得意。しかし、時代の変化の中で、既存の基幹分野がどんどん減ってしまった。会社を成長させるためには新しい分野でのNo.1をつくっていく必要があった」

 本多通信工業の復活劇を支えたひとつは「車載」。クルマに使われる電気機器用のコネクター部品だ。5年前までほとんどゼロに近かった売り上げが、今では全社の15%、20億近くまでに成長している。「EV(電気自動車)が本格普及すれば、使われるコネクターの数は飛躍的に増える。クルマ関係はこれまだまだ伸びるはず。成長分野をさらに伸ばしていくことが必須」と、No.1にこだわり見事V字回復を成し遂げた佐谷社長は、次なる目標を見据えている。

「業界No.1フットワーク」で実現した「納期1週間」

「早い・軽い・上手い」が経営方針

 「『早い・軽い・上手い』を合言葉に、『業界No.1フットワーク』を目指していきたい。」
 佐谷社長の掲げる本多通信工業の経営指針は「早い・軽い・上手い」。言葉だけ聞けば、定食屋の出前のようだが、前述の「No.1にこだわる」や後述する「コンビニ化」「どんどんいこう!」など分かりやすい言葉選びのセンスこそ、佐谷社長の力強いメッセージの特長だ。

 「世の中に出回っているコネクターのおよそ半分は、カスタム品と呼ばれるもの。つまり、その会社の仕様に合わせて作りかえていかなくてはいけません。実は、そこが本多通信工業の強みでもあり、実際、売り上げの7割以上がこうしたカスタム品が占めています。」多品種少量コネクターの「強み」をより強くする...本多通信工業が今一番力を入れているのが、すぐ作る「短納期」。普通は1か月かかる納期を、注文から1週間で届ける「1weekデリバリー」サービスをはじめた。

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短期納品のイメージは「コンビニ」

 「『試作品をつくるから、少しの量を早く欲しい』というお客様の声にお応えしたいと思い始めたサービス」という1weekデリバリーだが、どうやって1か月かかるものを1週間で仕上げることが可能になったのか?
 「コンビニエンスストアをイメージしました。」と佐谷社長。
 「コンビニは少人数でほんとに多くの商品を品切れさせずに運営している。その仕事のやり方を見習って、私どもの仕事のやり方に導入しました。」ひとつめの取り組みは、社内業務の高速化だった。受注からの納品までの流れを紙に書き出し壁にはるなど「見える化」することでコンビニのマニュアルのように、業務フロー全体のむだを省いていった。

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経営計画は「どんどん行こう!」

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大事なのは組み合わせの技術

 短納期の2つ目のポイントはロボットだ。「この10人力のロボットを導入することによって組み立て時間もぐっと短くなりました。」現在8台が稼働する多関節ロボットにより、組み立て工程の自動化が可能になった。さらに2014年度末までに20台余りに増やす予定だ。
 しかしこのロボットがあれば、だれでもコネクター製造が可能なのか?「ロボットを買ってきたらといって、すぐにコネクターが作れるわけではない」と佐谷社長。「ロボットの動きをよく見てください。あれは部品を運んだり、位置を変えたりしているだけなんです。コネクターは電気を流す金属の部品と、電気を通さないプラスチックの部品を組み合わせることで作られます。大事なのはその組み合わせの技術。治具(ジク)と呼ばれる加工機械で組み立てていくのですが、この治具がからくりのような仕掛けになっていて、それは簡単にまねできない。」


信州のものづくりに貢献したい

 短納期3つ目のポイントは「信州でのものづくり」だ。「中国でつくっていたモノを、今、日本に持って帰ってきて日本でつくっています。そうすることによって物流のリードタイムがぐっと短くなった」と、佐谷社長。さらに長野県でつくることには品質的なメリットも大きいと言う。「信州は精密部品などのものづくりが盛んな地域ですので、コネクターをつくる上で大事な良い品質の部品を仕入れることができます。地域とのつながりの中で、良い商品が生まれる。多品種少量のコネクター作りの強みをさらに磨いて、信州のものづくりに貢献していきたい。」

 2012年度の連結売上高は138億4200万円で、2015年度には売上180億円とする目標を掲げている。「基幹分野で2ケタの利益、新分野は2ケタ成長、経営効率を高めて2ケタのROA(総資産利益率)達成、2015年までに3つの『2ケタ』(Double-Digits)を達成するための計画を実行中」という本多通信工業。  「2ケタ」(Double-Digits)を「15年」までにという中期経営計画の名前は「DD15」。「DD15と書いて『どんどんいこう!』と読ませています」と佐谷社長は笑った。

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【取材日:2013年09月11日】

企業データ

本多通信工業株式会社
(松本工場)長野県安曇野市三郷温4604番地 TEL:0263-77-3311
http://www.honda-connectors.co.jp/