[サイプラススペシャル]50 セキュリティゲート専門メーカー 「通すか通さないか」それが問題

長野県佐久市

日本ハルコン

 新型インフルエンザの集団感染を防ぐ方法として、「サーモウォッチャー付ゲート」-発熱している人をセンサーで検知し、出入り口のゲートが自動的にロックする装置-が注目されている。これまでも、通行する人の発熱を判定する装置はあったが、このゲートは、セキュリティゲートと接続して、通行時に赤ランプで知らせたり、「検温してください」と音声を発して、建物や会場への入場を規制できる。この「サーモウォッチャー付ゲート」を開発したのが、佐久市三河田にある「日本ハルコン株式会社」である。

自動改札装置から始まる

n-halcon03.jpg

 日本ハルコンは、国内でも数少ないセキュリティゲート専門メーカーである。だが、最初からセキュリティゲートを製造していたわけではない。スタートは、1992年(平成4年)、52歳でスキーリフト券自動改札ゲートのメーカーとして創業した。1979年に同社を設立した社長の岡本源生氏は、長年鉄道の自動改札装置の研究開発に携わった。鉄道の自動改札装置は、通勤ラッシュを解消し、人の流れをスムーズに進めることが目的で開発された。磁気コーティングした切符が実用化され、全国の鉄道で本格的に自動改札が導入されるようになったのは昭和50年代、自動改札のコア技術は、今日のSUICA(スイカ:乗車券や電子マネーとして利用できるICカード)にも通じている。

n-halcon04.jpg

 岡本社長が独立したのは、夏はテニスに冬はスキーにという若者文化全盛期、全国各地のスキー場では、リフト待ちの長蛇の列が続いていた。この混雑を、なんとか解消したいというスキー場に登場したのが、スキーリフト券自動改札ゲートである。日本ハルコンでは非接触型IDカードを使ったゲートシステムを開発した。入り口でカードをかざすだけで、リフトに乗ることが出来る。スキー場のスノーマシンのトップ企業である地元企業の応援もあり、このゲートは全国に広がった。北海道のニセコ山系の4つのスキー場では、このシステムの導入で、相互乗り入れ可能になるなど、スキー場のサービス向上や、混雑解消に役立った。当時、自動ゲートを導入した全国44箇所のスキー場のうち33箇所で、日本ハルコンの製品が使われたという。OEM生産のため日本ハルコンの社名が表に出ることはなかったものの、技術力の確かさは十分に証明された。
 ところが、その後スキー人口が減少、スキー場の設備投資も激減。日本ハルコンの業績も「ピークを100とすれば1割くらいにまで急速に悪化」してしまった。96~97年のことである。

何とかしなければ

n-halcon05.jpg

 岡本社長が、スキーリフト券自動改札ゲートの売れ行きが減少する中、新規事業分野として手がけたのが、リフト券自動改札ゲートを応用したセキュリティゲートシステムである。「セキュリティゲート専門メーカーへ乗り換えた」とは、この経営危機を乗り切った社長の言である。
 当初、セキュリティゲートの市場はほとんどなかったという。2001年のアメリカ合衆国9.11同時多発テロ事件を経験し、「セキュリティ」「リスク」という言葉が、いろいろな場面で使われ始め、持ち出し不可の書類が流出するという情報漏えい事件が発生したり、過労死防止のため、出退社時にゲートの使用を検討する企業が現れるなど、社会全体で、セキュリティへの関心が高まってくると、日本ハルコンの「セキュリティ」システムの需要も伸びてきた。

セキュリティと利便性

n-halcon06.jpg

 安全な環境を提供する「セキュリティゲート」、簡単に言うと、あらかじめ情報を入力されたカードを持った人が、ゲートのカードリーダー部にカードをタッチ、この入力情報が、認証され、入場を許可されるシステムだ。
 しかし、その使い方は実に多様である。ゲートの設置場所は、屋内とは限らない。当然、雨風にさらされる。スペースはどうだろう、最初からゲート設置の場所が確保されていない場合もある。また、1台のゲートで、出たり入ったり出来なければ、出入り口が別々になってしまう。ゲートの設置によって人の流れを妨げることになってしまえば、不便この上ない、などなど。また、日本の企業は、人事異動や組織変更に伴って設置場所をかえることもあり、その都度据付工事が必要であれば、コストも心配だ。
 たくさんの使い方にあわせるように、日本ハルコンは様々なセキュリティゲートを開発してきた。「私どもが提供しているのは、マンマシン・インタフェースです」と岡本社長は語る。人と機械の関係をいかにスムーズにするか、使う側にストレスを感じさせない機器はないのか。ともすれば、「管理」や「制限」といったストレスの原因になってしまうセキュリティゲートを、必要な機能を維持しつつ、心地良いサービスとして提供できないか、それが岡本社長の語る「マンマシン・インタフェース」である。

マンマシーンインターフェースを見る

n-halcon07.jpg

 丈夫であること、ここにはスキーリフト券改札ゲートで培った技術力が生きる。防塵・防水・耐塩・防寒など「屋外」設置に何の心配もない。日本ハルコンの製品はパンフレットに書かれた「すこぶる頑丈×すこぶる柔軟」が前提だ。昨年秋に完成したばかりの「ハルコンテクニカルセンター」に自慢の製品が並ぶ。

 まずは「スリムゲート」。外枠の巾は10センチ、通路を60センチと仮定しても、90センチの巾があれば、据付工事がなくても設置できる製品だ。フラッパーとよばれるドアも薄く、開閉音も静かだ。1分間に32名は通行可能という。ここに、センサーで発熱者を検知する装置が取り付けられたのが、話題の「サーモウォッチャー」。外枠の右上には、巾10センチ、高さ20センチ、23センチのセンサー装置がついており、フラッパーの開閉を制御する。設定温度以上の「熱」を検知すると、カードを認識してもゲートは開かず、「検温してください」と音声が流れる。
 次は、2009年7月から販売している「共連れ防止」ゲート。カードをゲートの認証機にかざして中に入るとき、そのゲートを「通れるか、通れないか」は、その人がカードを持っているかいないかできまる。しかし、持っていない場合でも、持つ人と一緒に並んで入るとゲートを通過できてしまうのが「共連れ」である。カードの認証を受けていないのに入室できるのはセキュリティ上大問題。このニーズに応えたのが、日本ハルコンの共連れ防止ゲート「アンチテールゲート」。スライド式の強化ガラスの扉で前を仕切り、一人ずつ認証する。機密情報や顧客情報を扱う企業などに、より高度なセキュリティが提供できる。

 これらの製品には、様々なオプションも用意されている。LEDで矢印を表示した通路案内板をつける、離れたところからこのゲートが見えるように点滅するランプをつける、いづれも外枠に組み込まれるので違和感はない。ホルダー付カードを、回収する機構も工夫されている。

n-halcon08.jpg

機能とデザインをマッチさせて

n-halcon09.jpg

 和風デザインのゲートも登場した。発売されたばかりの「モデシン」だ。ゲートの外枠は6センチ、「スリムゲート」より更に細い。壁面はガラスを使用し、開放感を演出、開閉のフラッパーには花柄をあしらっている。車椅子使用の機能も追加した。車椅子の方が一人でも通過できるようにフラッパーの動きをゆっくりコントロールする、認証機器を低いところに置く、など、セキュリティ機能にユニバーサルデザインをプラスしたゲートである。認証音には、水琴窟や風鈴など癒し系も使える。
 「モデシン」は、セキュリティゲートの設置場所や用途が広がっていくデザインでもある。若い社員の発想だというが、ここからも「ゲートだけの専門メーカーとして、質の高いセキュリティを提供する」という日本ハルコンの姿勢が伝わってくる。

時代の一歩先を行く

n-halcon10.jpg

 日本ハルコンの社員は女性4名を含めた23名、営業は3名である。様々なマンマシーンインターフェースを提供するには、まずお客様の要望をキャッチすること、そこで立ち上げたのが、営業と技術を一緒にした「技術営業本部」である。商談には、設計部門も一緒に出向く。技術スタッフのバックアップで、レスポンスが早く、契約成立へとスムーズな流れが出来、成果も出始めている。
 今後は、「セキュリティ」の認証方法として、指紋や、指や手のひら静脈など本人しか持ち得ない情報が注目され、実用化も研究されている。現在も、指紋や網膜の認証のテクノロジーはある。しかし、これを利用した使い勝手の良いセキュリティゲートの生産はまだ開発途上だ。技術を、使いやすい形、より多くの人が安心して使える製品にして提供する。それが日本ハルコンの目指す提案営業の形だ。デザインや価格も含めた研究開発の役割は、大きい。機器の生産は飯田と諏訪にある協力会社で行っているが、研究開発は本社、その経費には、売上の約4分の1を計上している。
 世界的景気後退の中でも、安全安心を求める意識は高まっている。人に任せていた管理や監視の仕事を機械に置き換えることで、快適な環境を作り出し、維持することへの関心も広がってきている。セキュリティゲートが社会的インフラとして必需品になる時代が、既に来ている。

 最後に社名の由来を伺った。鍵は、映画「2001年宇宙の旅」。そこに出てくる人工知能はHAL(ハル)と呼ばれている。当時コンピューターといえばアメリカのIBM、そのIBMより前に一歩先を行くということで、アルファベットのIの前のH、Bの前のA、Mの前のL、からつけられたのが、映画に登場するスーパーコンピューター「HAL」だ。その名にコンピューターのコンをつけて「日本ハルコン」、遊び心がありながら、時代の一歩先を行く名前、それがセキュリティーゲート専門メーカー、日本ハルコンなのだ。

n-halcon11.jpg

【取材日:2009年9月29日】

企業データ

日本ハルコン株式会社
長野県佐久市三河田403-5 TEL:0267-63-1151
https://n-halcon.co.jp/