長野県大町市
アルペンローゼ
「緑あふれる豊かな自然の中で癒されたい」という現代社会の中で多くの人が持つ願い、その「癒し」を、製品を通して提供している企業が大町市のアルペンローゼ株式会社である。長野県内でもとりわけ自然豊かな安曇野の一角にあるアルペンローゼのナチュラル化粧品の製造工場を訪ねた。
アルペンローゼは、1989年に創立、2006年に2代目社長に就任した宮澤豊次氏は元銀行マンという経歴の持ち主だ。
「日本にも、古くからお香やゆずなどの香りの文化がありますが、」と宮澤社長は、アルペンローゼの創業当時を話し始めた。
「昭和50年代後半、当時美容業界向けのシャンプーやトリートメントの製造を行っていた創立者高橋洵(まこと)が欧州で、エッセンシャルオイル(=精油)の文化に触れ、植物が持つ癒しの力に感動して、日本でも、将来香りの文化が必要となるに違いないと判断したのです。エッセンシャルオイルの輸入は、日本で初めてでした。」
「平成になるとアロマブームが起こり、エッセンシャルオイルは順調に広がりました。しかし、ほかの業者の参入もあり、売上が伸び悩む中、もともと業務用のシャンプーやトリートメントを製造していたので、その製品にエッセンシャルオイルや、植物エキスを取り入れてみました。日本のアロマテラピー化粧品の草分けです。」
そのアロマテラピー化粧品の製造部門が独立したのが、今日のアルペンローゼ。アルペンローゼは、アロマテラピー化粧品のパイオニアだ。
アロマテラピーとは、「芳香療法」と訳され、ハーブ(薬草・香草)や果実・樹木などから採取される100%天然のエッセンシャルオイルを利用した自然療法で、ストレスからの解放や心身の健康、そして美容にも利用しようという目的で、ヨーロッパで育った文化だ。その歴史は、ヨーロッパを中心に古代エジプトの時代まで遡るという。
1980年代、「植物が持つ生命力と癒しの力」に注目したアルペンローゼでは、エッセンシャルオイルや、植物エキスを配合した心と体に快いアロマ関連の研究開発に努めた。そして、日本人の髪や肌に合うナチュラルヒーリング化粧品として、1996年、現在も主力ブランドである「ラ・カスタ」を発売する。
この「ラ・カスタ」の全製品には、自社農園で無農薬栽培したメディカルハーブ「エキナセア」から抽出したハーブエキスを配合し、更に安心安全な品質にこだわった数多くのエッセンシャルオイルも加えられている。
しかし、一口にエッセンシャルオイルといっても、ハーブなどの花や、果実・茎、樹木など、原料の種類は多く、また、日本では「オーガニック」の定義や条件(3年間農薬を使用していない場所での有機栽培、周囲の農作物からの影響を受けないためには広大な圃場が必要など)を満たして栽培することが大変難しいため、ほとんどがフランスを始めとするヨーロッパからの輸入品である。宮澤社長は、実際にフランスやイギリスの栽培農園に出向き、エッセンシャルオイルの蒸留工程を見て、確かな品質の製品を仕入れている。
エッセンシャルオイルともう一つ大事な原料は「水」。北アルプスの雪解け水を自社で地下120メートルから汲み上げて使っている。「肌によくなじみ、健康な体に必要なミネラルバランスにも優れた、まろやかな軟水です。情報収集は東京でもできますが、製品の研究は、この水を使って、ここでしかできません。」宮澤社長は、水質の良さを強調する。さらに、北アルプスの雪解け水は、清浄感があり、商品イメージのアップにも有効だ。
アルペンローゼの工場は、大町市が分譲したアルプスパノラマ工業団地内にある。しかし、案内板に沿って駐車場に入ると、そこは大きな森の入り口、緑輝く木々に沿って入り口を示す門と、奥に通じる小道が見えるだけ、この奥に本当に工場があるのだろうかと一瞬戸惑うほどだ。
小道を歩いていくと、車を降りたときに感じたさわやかな空気が、たださわやかだというだけではなく、次第に濃くなり、しかも、体の中に入ってくるような空気感に変わる。植物の強烈なエネルギーに満ちた空間とでもいうのだろうか。
そして、この森の奥に工場がある。
アルペンローゼでは「試供品を配り、使ってみて買っていただく。」という販売方法が基本だ。デパートやホームページで試供品を配布することで製品の認知度を高めてきた。また、08年には東京の表参道に、09年に新宿のデパートにも直営店を開設した。このごろは雑誌等で取り上げられるケースも増え、ナチュラル化粧品への関心の高まりを感じるという。
宮澤社長は、「皆さんにこの工場へ来ていただきたい」と語る。製品の良さを納得してもらうために、消費者はもちろん、美容業界、デパートの店頭などで化粧品の販売を担当する人に、製品ができる工程や環境を知ってほしいというのだ。だから、工場は見学者用コースを設けたオープン工場。予約をすれば、製造工程を見ることができ、「香りの体験工房」で、世界で一つの「マイブレンドオイル」を調合することもできる。『安心・安全な化粧品です』と、口で言うよりもこの森に囲まれた工場に来て、製造工程を見てもらうことが、作り手の心をアピールする力になると考えている。
見学コースからは、大きなガラス越しに化粧品のバルクが入ったストレージタンクというステンレス製の樽がいくつも見える。毎日の生産量は約5トン。製品にすると10000本から12000本、大量生産という量ではないが、品質を保ち、販売量とのバランスを勘案した生産量だという。清潔な環境を維持するために、製造室内の気圧は少し高く設定されており、特に外気はフィルターを通して送り込んでいる。
化粧品のバルクは、ストレージタンクで隣の充填包装室へ移し、ここで、容器への充填と、包装作業が行われている。5人で1グループをつくり、グループごとに充填作業から、包装までを行っている。重量は自動計測だが、汚れやキズは禁物、目視によるチェックは特に入念に行われている。ラインは毎日アルコール消毒を行い、充填包装後も、すべての商品を48時間そのままの状態で保管、雑菌がないことを確認した後全国に出荷する体制をとっている。
隣は試供品の製造ライン、こちらは、販売用も含め、1日35000枚、月間で70万枚を生産するという。
工場をとり囲む森を「ラ・カスタ ナチュラルヒーリングガーデン」という。広さは、11000平方メートル、2001年から、設計企画を始め、木を植え、花を育て、2006年オープンした。250種類3700本の樹木と350種類以上の花が咲く手作りの庭園だ。コンセプトは、ずばり「植物の生命力と癒し」。流れる川、滝の水はもちろん北アルプスの雪解け水。木漏れ日のさすガーデンで「人と自然との調和」を目指したライフスタイルを実感して欲しいと造り上げた、アルペンローゼの企業ブランドを表現した庭園だ。
今、アルペンローゼが目指すのは「トータルケア」、体の外からも中からも健康であること。ヨーロッパの香りの文化は奥が深く、アロマ関連製品は、ヘアケアから、スキンケア・ボディケア・フレグランスまで、化粧品以外でも製品化の可能性は広く、大きい。
「人は、美しい自然に身をゆだね、香りを体験することにより、心豊かで心地よいなんともいえない安らぎと懐かしさを覚え、心も体も元気に美しくなるもの。アロマの世界を、新しい目線で製品化し、それを日本の市場に出していきたい。何を出していくかは、日本にいるだけではわからない」と語る宮澤社長は、ヨーロッパへの出張が控えている。
「ラ・カスタ」の森から、香りの発信が続く。
アルペンローゼ株式会社
長野県大町市常盤9729-2 TEL:0261-21-1611
http://www.alpenrose.co.jp/