長野県埴科郡坂城町
西澤電機計器製作所
1960年創業の長野県埴科郡坂城町にある西澤電機計器製作所にとって特別な日がある。2005年2月10日である。この日は、「LIVE+PLUS」というブランド名で福祉機器の自動ページめくり器を商品化し、「ブックタイム」と名づけて販売を開始した日だ。計測器メーカーとして実績を重ねてきた「NISHIZAWA」の歴史に、新たな1ページを刻んだ日でもある。計測器から福祉医療分野まで、挑戦を続ける西澤電機計器製作所を訪ねた。
西澤電機計器製作所は、創業時よりの計測器メーカーHIOKIの協力工場で、現在もこのHIOKIのアナログ電気計測器のOEM生産を行い、技術交流を含め、厚い信頼関係を築いている。
また、アナログパネルメータやテスタは、「NISHIZAWA」の独自ブランドだ。数値だけではなく、針の動きで正常か異常か一目でわかるアナログメーターは、デジタルの計測機器が普及しても、活躍の場面がなくなることはない。
しかも、メータやテスタ類の学校教材用製品も手がけ、この分野の国内シェアはトップ、また、実習用のDC/ACインバータも商品化している。いずれも、未来の技術者育成に貢献する製品で、電気計測器メーカーとしての社会貢献やマーケットはゆるぎない。
そこに、新たに「NISHIZAWA」の製品として登場したのが、「LIVE+PLUS」ブランドの福祉機器自動ページめくり器だ。
「『見えないもの』を測ることに興味がありました。」住まいの一部に据え付けた機器を使ってたった一人で指示電気計器の製造を始めた創業当時を振り返る西澤泰輔社長(71歳)。しかし、電気計測器づくり一筋に歩みつつも、「何か社会貢献を果たせる製品を開発したい」という思いがあったそうだ。だから、新しい技術開発の必要性を感じたとき「人の役に立つものづくり」を決意、生きる喜びや感動をプラスする製品ということで、このページめくり器につけられたブランド名は「LIVE+PLUS」。その熱い思いが伝わってくる。
自動ページめくり器は、ページをめくる人間の指の動きを再現した機械。ハンディキャップを持つ人にも本を読む楽しみを提供してくれる読書支援ロボットである。
ロボットというと工場内で働く産業用のイメージが強いが、これからの少子高齢化時代は、日常生活を支え、より生活を便利にしてくれるロボットが大いに期待される。
西澤電機計器製作所が4年をかけて信大と共同開発したこのページめくり器は、その意味でも時代のニーズに応える製品。2008年には「今年のロボット」大賞最優秀中小ベンチャー企業賞に輝いた製品でもある。
ページめくり器は、先端にゴムを付けた自動車のワイパーのように動くアームが、本のページの隅を浮かせ、その間に細長い棒が割り込んで1枚ずつページをめくるしくみだ。アームは、ひじでも押せる6センチほどのボタンや息を吹き込むスイッチなどで操作、左右どちらからもめくることができ、本の大きさは文庫本からA4サイズまで、ハードカバーの本から雑誌まで紙質の違いもクリアしている。1台約35万円と高額だが、使う人の満足度は高く、市場は日本国内にとどまらない。既に世界各国で、160台の販売実績を重ねている。
西澤電機計器製作所の製品が並ぶロビー脇に、ページめくり器の試作品が並んでいる。その数7台。しっかりした枠がついた譜面台に部品を取り付けたような1号機から、説明を聞いてようやくその差がわかるような段階のものまで、「計測器とは全く異なる技術で、部品は一つ一つ手作りしました」という言葉が納得できる進化の過程だ。今も、全部で650点近くある部品のうち160点は社内で生産している。
ページめくり器のポイントは、何よりも読む人が自分で1ページ1ページめくる動作を再現した『紙の1枚分離技術』だ。これは西澤電機計器製作所がゼロから開発した世界初の技術、「企業を存続させるのは、世界にない技術だ」という社長の信念と社員のバイタリティが成功を支えた。
初めて手がけた福祉機器は、市場もゼロからのスタートだった。福祉団体や障害者の協会に試作品を送って改良を重ね、展示会にも積極的に参加するなど、新しい分野での自立への道を模索した。
一人一人異なる障害をサポートする福祉機器の基本機能は一緒でも、仕様は1台1台が個人のニーズにこたえた特別仕様だ。実際に使ってもらって修正を重ね、その結果、新たにベッドでも使えるページめくり器も完成した。
2005年のページめくり器の後も、2008年にはデジタルの発汗計と皮膚電位計、2009年はそしゃくかみしめレコーダー、拡大読書器と次々と新製品を製造販売している。
発汗計や皮膚電位計、そしゃくかみしめレコーダーは、理化学器に分類されるものだというが、「NISHIZAWA」の計測制御技術を生かした付加価値の高い機器である。これらは、もちろん大量生産大量販売ではない。計測器メーカーとしてのベースを持ちながら、数は少なくとも世界に広がる「LIVE+PLUS」で新たな事業開拓を目指す西澤社長の「技術立社」は、言葉だけではない。
さらに新しいニュースがある。2010年2月の眼科用医療機器メーカー株式会社ナイツの子会社化である。主力製品は検眼鏡で国内のシェアは8割を超える。今後はナイツブランドでハードルの高い医療機器の製造販売も可能になる。ナイツの技術を製品化しさらに使いやすい機器に改良していくのは、西澤電機計器製作所の技術である。
子会社化後半年にしてすでに成果もでてきて、福祉医療機器メーカーNISHIZAWAの方向が明示された判断は、まさに未来への一歩だ。
一方、西澤電機計器製作所は各種認証の取得にも熱心に取り組んできた。ISO9002・9001、ISO14001、そしてBS8800の適合証明登録は中小企業としては日本初であり、日本品質奨励賞、TQM(総合的品質管理)奨励賞も早い段階で取得している。中でも2006年に受賞した総合的品質管理を実施し業績を向上させた企業に贈られるデミング賞実施賞は、非常に権威あるものだ。しかし、西澤社長は、「それを獲得することが目的ではなく、その過程の「全社一丸」となることが大事」と語る。「リスクを伴わない道はない」NISHIZAWAの挑戦は続く。
株式会社 西澤電機計器製作所
長野県埴科郡坂城町坂城6249 TEL:0268-82-2900
http://www.nisic.co.jp/