長野県松本市
エンジニアリング・システム
一人乗りヘリコプターからオリンピック公式測定機まで
「分野を超えた」独創的な技術者集団
空を自由に飛び回る「一人乗りヘリコプター」から、長野オリンピックで使用された「タイム測定のスタート装置」まで、松本市のエンジニアリング・システムは、「動くものなら、なんでもつくる」ものづくり企業だ。
従業員はわずか30人。「世の中になければつくってしまえ」の独創的な技術者集団の「ものづくりの現場」に迫る。
自動で「熨斗(のし)を折る機械」に、特殊素材の「紙でつくられたギター」。
松本市の臨空工業団地、奈良井川のほとりに建つ白い3階建ての建物から、毎年のように「発明品」が生まれている。創業1970年の、エンジニアリング・システムだ。
「一言で言えば、『世の中になければ作ってしまえ』という企業」と柳沢真澄社長が説明するように、エンジニアリング・システムは独創的な「ものづくり」企業だ。
「開発は成功したが、ビジネスには失敗したものがほとんど」と、柳沢社長。見た目は普通のギターだが、素材は紙...という「紙のギター」をつくったのは、今から15年前。「紙に含まれる繊維を、プラスチックなどの樹脂で固める」ことで、強度と軽さを実現した。「今で言う、繊維強化プラスチックと同じ発想」だが、コストが割高なため、商品化は見送られた。
さらに、さかのぼること四半世紀前の1973年には「水素エンジン」を開発した。水素とガソリンを噴射して、窒素酸化物をほとんど出さないエンジンの開発に成功。残念ながら時代を先取りしすぎていて商品化には至らなかった。
「一人乗りヘリコプター」「熨斗を折る機械」「紙のギター」「水素エンジン」...まだまだ他にもエンジニアリング・システムが世の中に生み出した製品は多い。しかし、この特異なものづくり企業はいったいどうやって儲けているのだろうか?
「5年前までは、依頼を請けて製品を作り開発費を稼ぐ『発明家』みたいな企業紹介でよかったのですが、今はちょっと変わってきています。」父である先代・創業社長から引き継ぎ、2003年にトップに就任した柳沢社長。2代目に変わってから、企業のあり方も少しずつ変わっている。
「売り上げの3分の2を占めるまでに成長した」という現在の主力は、医療分野。特に注力するのはがん患者の放射線治療に使われる「固定具」だ。1995年に開発した、熱を加えて顔や胸のカタチに変形させる特殊な素材が核となっている。
使い方はこうだ。規則的に穴の開いた1枚のシートに、特殊なヒーターで熱を加える。これを、患者の顔や胸に押し当てると、シートは人体のシルエットに変形し固まる。「がん治療に用いられる放射線照射は、1回では終わらない。何度も何度も、同じ場所に照射するために、身体をしっかり固定しなくてはいけない。」
やけどしない低温で変形するが、体温や湿気では変形しないことはもちろん「患者さんが痛がったり、肌に影響があったりしてはダメ。」
「最終目的は、お客さまにとってもいいものをつくること」と柳沢社長。これまでの機械的な製品に比べ、医療用器具はあまりにも分野が違うのではないか?の質問に笑って答えた。
「機械や、電子回路、設計、材料など分野を分けるのは、お客さまにとってみればどうでもいいこと。つくる側が全部は大変だからといって、便宜的に分けているだけで、私たちは全部できるエキスパートを目指したい。」柳沢社長は、「理想ですけどね」と付け加えた。
実際に医療向けの商品でも、分野を超えて展開する。放射線治療の固定シートから端を発し、ベッドの上で患者の姿勢をサポートする医療用クッションなども開発し、参入障壁が高い医療分野で、確実に実績をあげている。
「日本メーカーはどこも参入しない分野でニッチ(すきま)産業だが、それでも大きい市場」柳沢社長は、確かな手ごたえを感じている。
「私たちの会社には、〇〇しかやらない、〇〇しかできないという人はいない」と、柳沢社長。「なんでもつくる」会社だが、スタッフはわずか30人あまり。企画・設計から組み立て・営業まで分野に縛られないものづくりを行うのが強みだ。しかし、どうやって人材育成をおこなっているのか?
「大事なのは、『良い仕事をいただく』こと。既成概念にとらわれた、今までの分野に従った仕事ではなく、分野を超えて、すべての知識を総動員して結果を出す、そういう仕事が成長につながる。」
「こういうことはできないか?」という課題に対して、分野を超えて様々なものを作り続けていることが、エンジニアリング・システムの技術力の蓄積となり、企業の成長の原動力となる。
医療と併行して、オリジナル商品の開発にも力を注ぐ。
電子レンジより少し大きめの銀色に輝くボディ。自社のロゴマークを付けた、超精密部品の製造に使われる"インプリント装置"が、クリーンルームに並ぶ。紫外線を照射し、ミクロン単位の加工を行う装置だが、ポイントは使いやすさを追求した点だ。
「性能は落とさず、機能を絞り込んだ」ことで卓上でも加工が可能になり、いままでの3分の1以下の値段を実現した。
柳沢社長は語る。「どんな斬新な商品も、いずれ古くなる。商品には必ず寿命があります。私たちが大事にしたいのは、『新しい商品』でなく『新しい商品を生み出すチカラ』。お客様のニーズに従った新たな商品を生み出し続けることをテーマに、仕事をさせていただいている。」
松本のエンジニア集団は、これからも次々に寄せられる課題を独創的な技術力で解決していく。
エンジニアリング・システム株式会社
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