[サイプラススペシャル]106 「野菜工場」で新たな地域貢献ビジネス 諏訪地域の「ものづくりの技」が集結

長野県茅野市

諏訪菜

注目の「野菜工場」ビジネスに新規参入
諏訪の地に登場した会社の名は「諏訪菜」

 温度や日照が管理された屋内で野菜をつくる「野菜工場」。季節にかかわらず安定的な生産が可能で、農薬も使わないなど食の安全面からも注目される野菜工場の支援ビジネスに、諏訪地域の企業が乗り出した。

 会社の名は、「諏訪菜」。
 諏訪の地で育まれたものづくりの技を結集し、まったく新しい分野で、新事業の産業化を目指す。

茅野駅前の商業ビルに「野菜工場」出店!?

工業の「新しい可能性」を追求!

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 透明なガラスの向こうは、まばゆいばかりの蛍光灯に照らされ、水菜やサンチェが青々と育つ。作業を行うのは、クリーンルームで使用される上下白い作業着を身にまとったスタッフ。「工業の新しい可能性の追求」をモットーとする株式会社諏訪菜の野菜工場だ。
 こうした野菜工場や植物工場は、大手メーカーなども参入するなど、新しい産業として注目が集まっている。

ビルの3階には「野菜のショールーム」!

 通常は専用の工場内で栽培される野菜。しかし、この諏訪菜の工場はちょっと違う。なんと商業ビルのテナントが、工場になっているのだ。

 JR中央本線茅野駅前の商業施設「ベルビア」。レストランや本屋、洋品店がならぶ普通の商業ビルの3階に上がると、そこには近未来を思わせる野菜工場がお目見えする。広さはおよそ100平方メートル。ガラスの向こうでは、サンチェ・リーフレタス・水菜、さらに中国野菜の山東菜がつくられている。その異色の光景は、まるで野菜栽培のショールームのようだ。

あえて「人目につく」ように!

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 「ご覧の工場は、諏訪圏の中小企業の長年にわたる技術の集積です。」と、北澤敏明社長。大きく目立つ諏訪菜の看板。今は野菜工場として稼働する商業施設の一角は、もともと中華料理店だった。「人目に付くようにしなければ意味がない、と思ってこの場所にしました。」
 買い物客のほか、育児施設や学習塾なども入るこの商業施設。ベビーカーを押した若い母親も、買い物途中に足を止め野菜工場の中を見つめていた。
 「ここでとれた野菜、実際に1階の飲食店さんで料理に使われているんですよ」と、北澤社長。究極の地産地消だ。

諏訪圏の技術が集結した!?

グループ10社が得意分野を活かす!

 「諏訪圏の技術の集積」という社長の言葉通り、諏訪菜の最大の特長は諏訪地域のものづくり企業が技術を結集した点にある。
 もともと北澤社長は、諏訪市にある金型製造の旭の社長だ。同じく諏訪市でプリント基板設計を行うエーピーエヌ、茅野市にあるプラスチック成型のみやまの3社が共同で出資し、野菜工場の開設や運営支援を事業化するために新会社「諏訪菜」を設立した。

 さらに地元で空調や配管を手掛ける会社など7社が加わり、計10社で「諏訪菜グループ」を形成する。
 一見すると専門外の企業が集まった新規ビジネスのようにも映るが、「それぞれの得意分野を活かすので、メリットが大きい」という。

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イニシャルコスト(初期投資)が安い!

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 「既存の野菜工場に比べ、非常に安価なのが一番のメリットです。」と、北澤社長。
 野菜をつくる専用の架台や内装、太陽の代わりとなる蛍光灯、大地の代わりとなる水や肥料を運ぶ配管などに地元ものづくりの技が活かされる。設備は卸を通さず各社が顧客に直接納め、設備も必要最小限でスタートできるため、導入コストは「通常の半分から3分の1程度」という。

 「コンテナや照明のメーカーさんなど、現在野菜工場のビジネスに参入しようとしている企業さんは、どうしても自社の製品を買ってもらうことが目的となってしまいます。そうすれば、なかなか費用は下がらない。」

 「設備を買ってもらおうとか、ここでつくった野菜を売ろうとか、そういう目先の商売ではない。」いったい諏訪菜は、どんなビジネスを思い描いているのだろうか?

ビジネスモデルは「地域貢献」!?

諏訪から世界へ発信!

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 「植物工場の技術を世界へ、この諏訪から発信したい。」新会社設立における中心的な役割を果たした福島知子取締役は、こう夢を語る。

 福島取締役はプリント基板設計・エーピーエヌの創業社長だ。これまで食品メーカーや建設会社で働いた経験があり、そこで得た野菜工場のノウハウをもとに新会社のビジネスモデルをつくろうとしている。

 「まずはシンプルに、地域への貢献です。」諏訪菜の商売の核になるのは、野菜工場設立から野菜の販売先開拓までをトータルで提供・サポートすることだという。大手商社が、原料の確保・輸入から国内産業の育成、さらにマーケットをつくるところまで一括して行うかのように、工場で野菜をつくり流通にのせ産業にするまでを地域単位で行おうというのが諏訪菜のビジネスだ。
 設備も地元の企業が共同で作り上げ、つくられた野菜も地域で消費する仕組みをつくる。これこそ「シンプルな地域貢献」だと福島取締役は考える。

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進化を続ける野菜工場!

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 「中国など、新興国などからも注目されているんです。」北澤社長や福島取締役には、それぞれの本業であるものづくりを通して海外からも野菜工場の問い合わせが多く寄せられるという。国内ではすでに単独で数件の受注実績もある。

 地域産業としての野菜工場は、進化を続ける。 もともと福島取締役は地元の諏訪東京理科大学で地域ビジネスとしての野菜工場をテーマに論文を書き各地でプレゼン(発表)を行ったという。さらに、現在も大学と共同で、より効率的な栽培方法の研究拠点として、諏訪菜を活用している。

日本の産業を救うビジネスモデル!

 「諏訪地方の部品づくりの産業は、今、大変に衰退している。」北澤社長の想いも、同じく地域への貢献だ。完成品メーカーは生産拠点を海外にシフトし、部品調達も海外で、という動きが広がる。
 諏訪地域だけの問題ではない。農業も、ものづくりも、地域の疲弊は日本の抱える大きな問題だ。

 「私たちは野菜をあらたな工業として、次世代に提唱していきたい。」地域の横のつながりで、窮地を脱することができれば...。商業ビルに登場した野菜工場は、諏訪のみならず日本の中小企業が生き残るひとつの事例をつくろうとしている。

【取材日:2010年12月17日】

企業データ

株式会社 諏訪菜
諏訪市沖田町1丁目121-5 TEL:0266-56-1178
http://suwana.jp/