長野県長野市
ハイブリッド・ジャパン
ハイブリッド・ジャパンは、FAXやプリンターなど情報機器の部品製造や組み立て、製品検査などを手がけているものづくり企業。パート社員を含め100名の従業員のトップは山浦悦子社長、68才だ。「ものづくりは、のこぎりの歯のごとくいいときもあれば悪いときもある。ここまでくることが出来たのは何よりも社員のおかげです。」OEM生産がようやく回復の兆しが見える中、自社製品開発にも力がはいる長野市青木島町にある本社工場を訪ねた。
山浦社長が、ハイブリッド・ジャパンを創業したのはパソコン黎明期の1980年。ソフトウェアを組む仲間とともに、従業員2人から始めた。「社長になりたいと、小さいころからずっと思っていました。社長ってカッコいいじゃないですか。」明るく楽しそうに話す山浦社長の笑顔に思わず頷いたが、カッコよさへのあこがれだけで会社は起こせない。まして、事業を維持継続することはできない。30年前といえば、女性による起業そのものが非常に珍しかった時代でもあった。
最初の仕事はFAXの部品製造と組み立て。取材時にはクレジット決済の端末機の修理や防災無線の充電器の組み立ても行われていたが、メインは情報機器や医療機器の組み立てと製品検査だ。2008年のリーマンショックで、受託の量そのものは減ったが、ハイブリッド・ジャパンへの発注が途切れることはなかった。
時代とともに製品は小型化、求められる性能や精度が高度になったが、振り返れば「不良品がでないものづくり」が一番の強み、山浦社長30年の蓄積だ。
量産化できる単純な部品製造は、確かに人件費が安い外国に流れていっているが、ハイブリッド・ジャパンが手がけるのは国内でしか出来ない仕事だと、山浦社長は自信を持っている。手のひらにすっぽり入る大きさの基板の上に、更に小さなコネクターやコンデンサーを後付けしたり、ミリ単位の部品を手ではんだ付けする作業、しかも、200台300台という小ロットの製品作りは、日本人であればこそ対応できるものづくりだという。
技術力を磨くために積極的に進めているのは、研修やセミナーへの参加だ。パート社員も男性女性の差もなく、勤務時間内に受講できる。社内では、はんだの検定試験も行われており、張り出された試験結果には社員の向上心が読み取れる。
製品の検査も、ハイブリッド・ジャパンの強さの一つ。
工場内では、周囲に蛍光管がついた直径15センチほどの拡大器を使って検査作業が行われていた。電子回路のはんだ付けのチェックでは3センチ程度の基板に縦横斜めと光を当てる。「ここにはんだがはみ出している箇所があります。」慣れた手つきで赤い付箋をはる女性。目は次の基板を捉えている。
除けられた基板を手にとった山浦社長は「このはんだのはみ出し、私には見えないけれど、彼女には見える。プロの目なのよ。」とつぶやいた。
実装の位置、はんだの状態、通電などの項目は組み込まれてから不具合が見つかっても手遅れ、大きなロスとなる。作業机の上には、図面と確認用のマニュアルが広げられている。山浦社長は、このマニュアルが大事だと説明する。新しい作業に取り組むとき、教える人も教わる人も必ずメモを取ること、どんなことでも自分なりのマニュアルを作って仕事をするように指導している。小ロット・高精度への対応には、"作られた"マニュアルでは役に立たない。
「不良品が出ないことこそがコストダウンへの近道、次のお仕事をいただくための必要条件」実感がこもる。
受注事業を中心にやってきたハイブリッド・ジャパンだが、自社製品の開発に着手したのは2008年の春、リーマンショックの直前だった。自社で値段をつけた製品を出したいと開発したのがLEDを使った商品だ。厳しい時期だったが、安全・省電力・長寿命・視認性などLEDの特徴を生かした独創性に優れた商品となった。先端から20センチの高さにLEDの電球を埋め込んだ杖、枠の内側にLEDを点灯させ中の写真や絵を照らす額、癒しを感じるインテリアライトなどが、試行錯誤のなかから生まれてきた。利益はこれからだが、社員が自分で商品を作ったことはこれからを生きる大きな自信になったと山浦社長は目を細める。ビジネスフェアや産業フェアでも自社の商品として売り込むつもりだ。
「コストダウンのものづくりは、コミュニケーションから始まる」一見、遠回りのようだが、働くモチベーションを大事にする山浦社長の実践だ。朝礼を始め、社員には出来るだけたくさん声をかけるという。会話の中で従業員の体調の良し悪しもわかるそうだ。
「どうしたら不良品がゼロになるか、みんなで考えて」「自分が作る商品は何か、どんな製品に使われている部品か、わかって作ろう」「次工程はお客様、お給料はいい製品を作ってこそもらうもの」「この1枚が、この1台がいくらか、知って働こう」そして最後は「あなたの指紋が付いた部品が製品になって世界に出て行くなんて、すごいことじゃない。」思いは見えないが、不良品ゼロという結果にあらわれる。
「一番難しかったのは、仕事の信頼関係を作ることでした。」起業したばかりの頃は、社長という名刺出さないほうがいいとアドバイスされたという。「最初は経営者の集まりに行っても隅のほうで小さくなっていた。」「金策に苦労したこともあったが、社員は家族を背負って働いている、社員が働いてくれるから自分がいると、かんばってきました。」だから「一番大事なのは社員の幸せです。」
30年の間には子育ての一次預かり所や、ハウスクリーニングの会社を経営したこともある山浦社長、自分自身が仕事と家庭の両立に苦労した経験を様々な形で経営に生かしている。子供の参観日や急な家族の病気に気兼ねなく休める職場作りにも気を配る。「生産性が落ちるという経営者もいるけれど、私はそうは思わない。ある時は隣で働く人をカバーして、別のときは自分がカバーされる。迷惑をかけないでがんばって働こうという気持ちになる。女性が働きやすい職場は男性にも働きやすいはず、むしろ生産性は上がります。」
そんな発想が長野県「社員子育て応援宣言」登録や平成19年度「長野市男女共同参画優良事業所表彰」に結びついた。
とにかく好奇心旺盛で、勉強したくて仕方がないという。長野市発の民間主導による異業種連携「ながのビジネス共創プロジェクト(b-cip NAGANO)」にも参加し、人脈を広げ、次のビジネスを考える。山浦社長に率いられるハイブリッド・ジャパンのパワーはますます加速する。
ハイブリッド・ジャパン株式会社
長野市青木島町大塚1136-1 TEL:026-284-4953
http://www.hbj.co.jp/