長野県長野市
国立長野高専教授 鈴木宏
長野高専の学生たちが開発の主役!
コミュニケーション機器の実力とは?
「こんにちは」「はい」「おかあさん」
手のひらサイズの機械に、カードを載せて軽く押すと、音声が流れます。言語障害などで会話が困難な方々のコミュニケーションをサポートする機械、その名も「押しゃべり君」(おしゃべりくん)。なんとコレ、ほとんど学生がメインとなって開発しました。
【特集】国立長野高専のスゴイものづくり。今回は、「学生たちが自ら創る」国立長野高専電気電子工学科教授・鈴木宏先生の研究…というより、学生たちに注目です。
シンプルでかわいらしいイラストの下に、「わたし」「猫」「好き」などと文字が印刷された何枚かのカード。カードを機械の上に載せ、ちょこっと押すと、そこに書かれた文字を機械がしゃべります。
製品の名前は、「押しゃべり君」。(おしゃべりくん)
名前の通り、カードを載せて押すだけでしゃべってくれる機械。機械自体とてもシンプルで、カードを載せる部分の他には、小さなスピーカーの穴があるだけ。難しいボタン操作も、複雑な設定もまったく必要ありません。
言語障害など会話が困難な方々に変わって、自分の伝えたい言葉を再生するコミュニケーション機器です。
「これはすべて学生が開発したので、私はいっさい手を出していません。」
そう笑うのは、国立長野高専電気電子工学科教授の鈴木宏先生。コミュニケーション機器を開発したのは、たしかに鈴木先生の研究室。しかし、鈴木先生は「いっさい手を出していない」というのです。
「学生2人が中心となって、地元企業と共同で開発したんです。」企業と共同とはいえ、学生たちが開発したという新製品。どんな学生たちが研究に携わっているのでしょうか?
「基本はC言語。プログラムはだいたい1か月くらいかかりました。」
「押しゃべり君」のソフトウエアを担当したのは、生産環境システム専攻1年の小市良祐さん。
高専、つまり高等専門学校は5年制で、高校3年間+短大2年間と同じようなイメージ。小市さんの所属する「専攻科」は、5年卒業のあとに進学する、いわば高専版「大学院」のようなシステムで、2年間のカリキュラムを終えると、ちょうど大学卒業と同じ歳、大学卒業と同じ資格「学士」の学位が取得できます。
「高専は、早い段階から専門的な勉強をしています。だから専攻科を卒業すると大卒と同じ資格ですが、一般的な大学院卒と同じくらいの知識と技能をもっていると自負しています。」鈴木先生の説明通り、専攻科の小市さんはより学校での授業を基に、研究室での活動を通して専門的な知識を身につけました。
「もともと市販のボードを使用していましたが、小型化するため、自分でボードを作成しました。」
「押しゃべり君」のハードウエアを担当した電子制御工学科奥山雅幸さん。一番苦労したのは小型化でした。
押しゃべり君は、カードの中にICチップが埋め込まれていて無線通信で認識。音声が流れます。かざすだけでピッと認識する「おさいふケータイ」などと同じような仕組みです。
この仕組みは、小市さんと奥山さんの学生2人がゼロから開発したわけではなく、制御盤設計の「匠電舎」(しょうでんしゃ)という長野市内のものづくり企業との共同研究。しかも、これまでも鈴木先生の研究室の学生たちが研究してきたものを、小市さん奥山さんが引き継ぎました。
小市さんが手にした弁当箱サイズの機器。大きく、使い方もまだまだ複雑だった去年までの製品を、より操作を簡単にしかもサイズを半分以下にしたのが、「押しゃべり君」です。
「匠電舎の社長さんから『ここに入るように頼むよ』と、いきなり言われたんです。」
幅14.4cm、奥行き8.2cm、高さ4.3cm。青いゴムカバー付き。「押しゃべり君」は、もともと形が決まっていて、小市さん奥山さんの2人はこの中に機能を納めなくてはいけないという課題を与えられたのです。
さらにもうひとつの課題は、金額。「販売価格もハードルが設けられているんですが、まだまだこれからです。」機器の中に組み込むボードまで自分たちで開発したことにより、機能を絞って小型化、コストダウンも可能になったと奥山さんは言います。
「与えた課題に積極的に取り組んでいる。すぐ即戦力として働いていただける。」
長野高専とともに「押しゃべり君」を共同開発した長野市の匠電舎冨樫元さんは、実際に指導した学生たちを「即戦力」と評します。
長野高専では、8年前から長期間のインターンシップをスタート。学生が、実際に地元ものづくり企業と一緒に研究を進めています。鈴木先生の研究室では、企業との共同研究を卒業論文のテーマとした学生が大勢います。
さらに、学校が公認した企業でのアルバイトの仕組み「企業書生」や、研究室ごとの共同研究など、ものづくり企業との共同研究取り組みは、学生にとっても、受け入れた企業にとっても大きな成果を上げています。
「『おしゃべり君』のように、実際にものを造れる。これが最大の魅力だと思います。」
実験や実習の授業だけでなく、企業との課外活動も活発な長野高専。鈴木先生は、「実際にものを造ることができる」ことこそ、高専の最大の魅力だと言います。
「押しゃべり君」は、県内の特別支援学校などで試験的に使い、来年度には発売も予定しています。企業との共同研究で、実力をつけた学生たちがこれからのものづくりを担っていきます。
(研究室のご案内)国立長野高専教授 鈴木宏