長野県岡谷市
東洋技研
薄くなった信号機の7割に、メイドイン・ナガノの端子台
「研究と努力に生きる」をモットーに、夢は日本一
「薄くなった」信号機に、“メイドイン・ナガノ”の技術が生かされているのをご存じだろうか。信号機の中に組み込まれる電気の配線を結ぶ「端子台」と呼ばれる部品。従来品の半分以下のサイズにすることで、画期的な薄型が実現した。
あたらしくつくられるLED型信号機の7割に採用されている端子台こそ、端子台専門メーカー東洋技研の製品だ。モットーは「研究と努力に生きる」。長野県発の端子台は、全国トップシェアを狙う。
「普段は見えないんですが、これ"メイドイン・ナガノ"です。」
東洋技研開発技術部の小松純一さんが、配電盤のふたを開けて説明する。指し示す先には、東洋技研の「端子台」。見た目は、こども用のブロックのおもちゃか、楽器のハーモニカのような装置で、規則正しく何本もの配線がつながっている。
「表には出ませんが、端子台は、電気が流れるところに必ず必要な装置です。」信号や空調、クルマの製造システムなどであらゆる電気系統に不可欠な存在だ。
機械と機械を結ぶケーブルを繋ぐ端子台は、いわば電気配線のターミナル。いくつものモーターや制御装置など、複数の機械が協調しあう電気系機器に使われる。「普段は見えない」長野県産の部品が、縁の下でさまざまな電気機器を支えている。
全国的に精密機械で有名な、長野県岡谷市。
諏訪湖のほとりに本社工場を構える東洋技研は、「国内シェアはおよそ2割、全国で2位」という、日本トップクラスの端子台の専門メーカーだ。
「良いものを安く、早く。さらにサービス良くが、商品を売る基本です。」特徴的な地元の言葉"諏訪弁"。岡谷の自社工場でつくられた端子台を手に、花岡孝社長は笑顔で話し始めた。
「国内で使われる端子台の多くは海外製。でもウチは全部ココでつくっている。」配線を繋ぐ端子台の仕組みは、精密機器に比べそれほど複雑でない。結果的に「安い製品」が求められ、人件費の安い中国など海外製品が主流となる。
しかし、東洋技研の端子台はすべて長野県内でつくられる。なぜ、国内生産が可能なのか?
「安く・早く」の答えは、一貫生産だ。
「金型製造から自動組み立て装置の開発まで全部社内できるから、安く、早くできる」と花岡社長。設計開発はもちろん、部品のプラスチック成型も社内で対応可能。しかも省力化機械も独自設計し、徹底した合理化を進めた。
結果、国内生産を続けながら、中国など海外生産に劣らない価格競争を維持している。
「これは、従来の約半分の大きさにした新製品。」「こっちは、電極を差し込むと、突起物が出る仕組みの端子台。」机の上に並べられた多種多様の端子台。ひとつひとつを手に取り、花岡社長が説明する。
たとえば、「VTZシリーズ」と呼ばれる製品は、電線が差し込まれるとTの字のマークが突出する。「作業している人が、ちゃんと奥まで差し込まれたことが分かるように」設計された東洋技研オリジナルの製品だ。「Tの字は、東洋技研TOGIの頭文字。どの角度からも確認しやすいんです。」細かな配慮がなされている。
「国内で作るから、新製品が早くできるんです。」一貫生産と並び、東洋技研のもうひとつの特徴は「良いもの」をつくり続ける設計開発スタイルだ。
現在も開発の先頭に立つ、花岡孝社長は68歳。
東洋技研の創業は1970年。農業のかたわら機械加工に興味をもった花岡社長が、20代後半のとき個人企業として創業した。
「もともとはリンゴ農家。設計は独学でやってきた」という花岡社長だが、新製品の開発はもとより、自動化装置まで自らで設計した。「いつも、こういうのはできかないか?とか、こうすればいいんじゃないか?と考えています。」
現在開発に携わる社員は6人。
「若い社員に、私よりイイものを開発されちゃって、悔しくてね。」取り外しが簡単な端子台。開発した若手技術者を、嬉しそうに花岡社長が紹介する。
総務担当の関高宏部長も、「これまで開発の中心は社長でしたが、今は社内の数人の若い世代に引き継いできています。」
電極を止めるネジの下に付いた「小さなバネ」。東洋技研の飛躍のきっかけになったのが「ネジアップ端子台」と呼ばれる製品だ。
「ネジを緩めても落ちないので、作業しやすい。作業する人が安心して使えるところがヒットの要因」と、花岡社長。バネがネジに引っ掛かり、ネジが落下しないようになっている。さらにバネの力で緩みにくいという特徴もある。
1977年に特許を取得。特許が切れた今、国内のどこのメーカーも取り入れるこの技術を、他社に先駆けて作り上げたのが東洋技研だった。これが信号機の配電盤に採用されるようになって、業績を伸ばし続けてきた。
「必ずひと工夫しろ、マネは作るな、といつも言っている。」
開発のモットーは「東洋技研は何か違う、とお客さまに思ってもらえること。」
後発メーカーながら、世にない新技術で端子台市場に参入して約40年。現在は、端子台を中心に25000種類の機器の製造・販売を行ない、年間売り上げは40億円以上、従業員118人の企業になった。
「中国にマネされたっていいんです。先に売りまくって、また新しいモノをつくればいい。」一貫生産により中国より安く、よいサービスを提供できることが東洋技研の強みだ。
「よいサービス」で忘れてはいけないのが、東洋技研の販売ネットワークだ。
「社員の約半分は営業部員」と、営業本部長の徳永克幸常務。
東京・大阪・名古屋はもちろん、仙台から福岡まで、全国11拠点の営業所を構え、日本全国をカバーする。
「営業が直接エンドユーザーさんの声を集める。『こんなものができないか』というオーダーに、開発技術部はすぐに支援できる。」営業サービスのスピードも東洋技研の特徴のひとつだ。
「端子屋として、日本一になりたい。」と、花岡社長。業界トップとの差は「シェアで1~2パーセント程度」という。
「シェア1位を目指すということは、安心して使ってもらえる"ブランド"を目指すということ。そのためによいものをつくり続ける、それだけです。」
製造から販売まで一貫したシステムの東洋技研。メイドイン・ナガノの端子台が、全国トップシェアを狙う。
東洋技研株式会社
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