[サイプラススペシャル]164 リッター1496km!「究極のエコカー」づくり 国立長野高専のものづくり②

長野県長野市

国立長野高専准教授 岡田学/エコノパワー部

低燃費レース全国屈指の強豪
夢に“駆ける”モーターボーイズ&ガールズ

1リットルのガソリンでの走行距離を競う「Hondaエコマイチャレンジ」。昨年10月に栃木県ツインクルリンクもてぎで開催された全国大会で、国立長野高専エコノパワー部は、3位に入賞しました。

技術と創意工夫を凝らしてマシンの燃費の限界にチャレンジする学生たちと、1996年の創部から16年間、顧問として学生たち引っ張っている機械工学科准教授岡田学先生。
ガソリン1リットルで何キロ走れるか?
流線形のボディー。極限までの軽量化。汗とアブラにまみれ「究極のエコカー」づくりに取り組むモーターボーイズ&ガールズを取材しました。

流線型ボディー!極限までの軽量化!

ガソリン1リットルで「長野から鹿児島まで」走る!

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「リッター1496km、究極のエコカーをつくっています」
空気抵抗を少なくした流線型のボディー。一見すると羽のない飛行機のようにも見えるペンシルロケット状のクルマこそ、国立長野高専エコノパワー部が取組む、究極のエコカーです。

学生たちの言う「リッター1496km」というのは、昨年の全国大会の成績。単純には比較できませんが、ガソリン1リットルで長野から鹿児島まで行ってもまだ余る、驚異的な走行距離です。

これまでの記録を大幅更新!

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「全国大会には、早稲田大学など有名大学や、ホンダやトヨタ、日産など自動車メーカー系列の自動車専門学校なども参加しています。その中での3位入賞。学生たちの自信に繋がっていると思います。」
創部から16年間顧問をつとめる機械工学科准教授岡田学先生が言うように、長野高専エコノパワー部は、昨年の全国大会で「大学・短大・高専・専門学校生クラス」で3位という好成績をおさめました。

これまでの最高記録だったリッター968km(8位)を大きく更新した背景には、空気抵抗を減らしたり、ガソリンと空気の混合比率を調整したりという様々な工夫があります。

極限まで軽く!空気抵抗を少なく!

「素材にFRPというガラス繊維を使っています。とにかく軽くすることが目標です。」環境都市工学科4年清水智彦さんが取り組むのは、クルマのボディーづくり。設計図通りに削りながら型をつくり、その型にガラス繊維を敷き、上からプラスチックを塗って固めると繊維強化プラスチックのボディーが完成します。

機械工学科4年山本紘太さんが担当するのは設計。
「空気抵抗を小さくするためにパソコン上で何度もシミュレーションをしています。」パソコンの画面に映し出され3Dの設計図。空気の流れなどを計算する流体力学を活用し、自分たちでゼロからマシンをつくっていきます。

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すごいぞ!国立長野高専エコノパワー部!

学生たちが自分たちでマシンをつくる!

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「エコノパワー部にすごいところは、35人の部員たちがひとりひとり自分たちで勉強して、設計、製作の作業などもすべて自分たちでやっているところです。」と、岡田先生。
校庭の脇にある倉庫から車体を取り出し、校舎1階の作業場で製造や調整などの作業が行われます。 もちろん先生がアドバイスをする場面もありますが、基本は学生たち主体で進めています。

「このマシンは細いチェーンを使ってエンジンの動力をタイヤに伝えています。こちらはシャフト方式。マシンによって設計の思想がちがっていますし、それによって運転テクニックも変わってくる。」熱く語る学生たち。
先輩たちが、中学を卒業して1年も経たない後輩たちに技術を教えていく。全国屈指の強豪に成長した背景には、こうした技術の伝承があるのです。

就職難の時代に求人倍率25倍以上!

1年生から5年生までの学生が学ぶ高専は、卒業すると短大と同じ資格を得られます。しかし、5年間のカリキュラムで効率よく学ぶ仕組みのため、「内容的には工学系大学の卒業と同等かそれ以上」と言う先生もいるほどです。

「大学を卒業しても就職先がない」大学卒の就職難が社会問題になるなか、国立長野高専の求人倍率はなんと25倍以上。(2011年度卒業者実績)卒業生1人に対し、県内外から25社の求人があるという計算です。

未来をつくる若者たち!

「もともとものづくりが好きという学生が集まっています。授業だけでなく、こうした部活を通して技術力を高めています。卒業後は最先端のものづくり企業で活躍する学生たちが多い。」と岡田先生。

「自動車メーカーに就職して、もっと燃費のいいクルマをつくりたい」「新しい技術を開発できるエンジニアになりたい」学生たちはエコノパワー部の活動の中で、自分たちの将来を見つめているようです。

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夢に"駆ける"モーターボーイズ&ガールズ!

エコランで人材育成!

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燃費の限界にチャレンジする「Hondaエコマイチャレンジ」。通称「エコラン」は、30年以上の歴史ある大会で、毎年全国の中学校や高校、高専、専門学校、大学といった学生たちや、社会人のチームが集まります。

ものづくりが盛んな長野県。
国立長野高専エコノパワー部以外にも、信大教育学部や、信大附属長野中など多くの学生たちが「エコラン」に参加しています。なかでも長野市篠ノ井西中学校エコラン班は、2年連続で全国大会準優勝。
「中学校でエコランをやったのがきっかけで、国立長野高専を志望した」という学生も多く、人材育成にも一役買っているようです。

活躍「なでしこ」パワー!

使用するのは、普通のバイクのエンジン。
大会の規定で、平均時速25キロより遅くなると失格。体重が軽いほど有利なため、ドライバーは女子部員です。

「天候やコース状況にあわせて、どこでエンジンをかけて加速して、つぎはどこでエンジンを切って惰性で進めばいいかなど作戦を考えます。その作戦どおりにマシンの速度を制御するのが、一番大変です。」
ドライバーのひとり、機械工学科4年の森山知絵さん。ちなみに彼女は、バレー部と茶道部を掛け持ちしています。ドライバーは森山さんふくめて女子学生5人。国立長野高専でも「なでしこ」たちが活躍しています。

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狙うは全国制覇!

マシンを設計する学生、実際につくる学生、ドライバーを担当する学生。エコノパワー部というひとつのチームが、大きなプロジェクトを実行しているという印象をうけました。

「長野高専の良いところは?」という質問に、「1年生から5年生までが、お互いに教えあいながら成長しているところです」と、岡田先生。
「卒業した後はものづくりの企業などで活躍できるところも良い所だとだと思います。」 夢に"駆ける"モーターボーズ&ガールズたち。国立長野高専エコノパワー部の次の目標は 究極の低燃費で「全国制覇」です。

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【取材日:2012年3月5日】

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