長野県千曲市
幾久屋
千曲市にある幾久屋(きくや)が手掛けるのは、自社で開発した「悠Uサンルーム」。よく見かける製品は四角形のものが多いが、幾久屋が主に手掛けているのは円形に近い多角形構造のサンルーム。屋根からも光が取り込めるのが特徴だ。製品のデザインを保護する意匠登録もされていて、他社では真似が出来ない。様々な家屋や建築物に設置するため、一つとして同じものはない。
「どうして円形のサンルームを開発しようと思ったのか」と、社長の馬場條氏(67歳)に伺ってみた。きっかけは27年前にアメリカのアトランタで住宅事情を視察した際に目にしたカーター元大統領の執務室。円形で出来たその部屋のあまりの優雅さに感動して、すぐさま開発を思い立った。帰国して構想に10年を費やして試作品第一号を完成するに至った。
幾久屋は馬場社長の父親が金物屋として昭和8年に創業。馬場社長の代から当時はまだ普及が進んでいなかったアルミサッシを取り扱うようになった。サンルームの開発に着手したのも、本来の社業がベースにあったからだ。設計にあわせて決められた寸法に窓枠や屋根材を裁断していく。しかし開発を始めたものの、当初は苦心の連続だった。
特に円形の設計は1mm違えば製品全体に影響が出て、全て計算し直さなければならない。デザインだけではなく材料の選定や、機能性を高めるために様々な研究と試作を繰り返した。この長年の研究開発の蓄積が、製品デザインを保護する「意匠登録」を取得することで他社に真似の出来ないものとなった。
苦心の末完成した円形サンルームは、誰しもが憧れる空間となった。「円形の空間は気持ちが安らぐ。それは人間だけではなく、動物も植物も共通している。」と話す馬場社長。ブームのような一過性のものではなく、100年先にも売れる製品だと胸を張る。外壁はほとんどが特殊ガラスで出来ていて周りの景色が一望できるので、周辺の環境も大切だという。
屋根から光を取り込むと、通常では夏はかなり暑くなってしまう。そのため幾久屋では、屋根材に熱を遮断するツインカーボヒートと呼ばれる特殊な材料を使用することで、光を取り込みながら暑くならないサンルームを実現した。また日本の気候風土にあった材質として、内壁は木材を使用している。また雨や風を遮る工夫も、数多く取り入れている。
「悠Uサンルーム」は他のサンルームに比べて価格設定は高めだが、注文にはほとんど影響しないという。その理由は、他社にないオリジナル製品だからだと馬場社長は言う。「同じものを作っていると、競合になる。オンリーワンの製品を作ることで今までに全くない需要を掘り起こしているので、プラス要素しかない。」と製品に絶対の自信を持っている。
開発から現在に至るまでの施工実績は、およそ200。東は茨城から西は九州まで、ひとつとして同じものがないサンルームを作ってきた。HPを見て「これだ」と思った方から、FAXやメールで問合せが来るという。一般の方は勿論、建築会社や工務店を通じての発注も多いという。今までは現場施工まで全て自社で行なっていたが、今後の施工については出来るだけ協力会社に任せる方針だ。
施工主はHPの写真やパンフレットを見て、イメージだけで依頼をしてくる。様々な条件の中で、どう設置するかを提案するのが腕の見せ所だ。馬場社長は「どういったものを作るか常にワクワクドキドキしている」という。これは裏を返せば、お客さんもどんなものが出来上がるかワクワクドキドキしているということ。ほとんどの場合は、馬場社長の提案通りで納得してもらえるという。
以前は販売網を拡大して全国展開を考えていた馬場社長だが、ある時点で方針を変えた。その理由は「お客様と喜びを共有する中で大量生産は無理だ」と感じたからだ。現在は数多く作るよりも、お客様に喜ばれる製品を粘り強く作っていくことに喜びを感じているという。大量生産がきかないことで、逆に顧客ニーズにきめ細かく対応できるというメリットを最大限に生かしている。
株式会社 幾久屋
長野県千曲市大字鋳物師屋717-1
http://www.kikuya-uu.jp/