[サイプラススペシャル]199 世界で活躍する「かにクレーン」 「次の50年」に向け飛躍!

長野県長野市

前田製作所

4本脚のユニークな姿
「創立50周年」前田製作所

 ミニカーになったりバラエティー番組に登場するなど、子どもたちにも大人気の「かにクレーン」。4本脚を伸ばして作業する姿は、名前のとおりカニのようだ。

 製造するのは長野市の前田製作所。メイドイン長野のユニークな機械は、欧州中心に世界で活躍している。今回のものづくりナガノでは「かにクレーン」の秘密と、「『かにクレーンの前田』のイメージを払しょくしたい」という創立50周年を迎えた前田製作所の戦略に迫る。

「かにクレーン」の秘密に迫る

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「トミカ」で一躍有名に

 移動する時は脚を折り畳んで収納。作業時には4本の脚を四方に伸ばし、車体を安定させる。油圧でボディを持ち上げる仕組みで、狭い場所や山間部でのクレーン作業を可能にした「かにクレーン」。正式名称は「ミニクローラクレーン」だが、前田製作所では1980年の発売当初から「かにクレーン」と呼び、現在では商品名の通称にも使われている。

 2007年にミニカー「トミカシリーズ」で「前田製作所かにクレーン」として登場したのをきっかけに一気に知名度が上がり、テレビ番組などでも取り上げられるようになった。一体どんな現場で使われているのだろうか?

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日本は「お墓」欧州は「窓ガラス」

 長野駅から南下することクルマで15分。郊外型ショッピングセンターや飲食店が並ぶ長野市篠ノ井の旧国道18号線沿いに、ひときわ目立つ11階建てのビルが前田製作所の本社工場だ。
 1階ショールームに展示された大型の「かにクレーン」の前で、前田製作所代表取締役土屋俊一さんにお話を伺った。

 テレビなどではおなじみの「かにクレーン」、どんな使われ方をしているのだろうか?
 「日本では、お墓をつくる石材業の皆さん中心にお使いいただいております。一方、海外では、建物ですとかビルの大型ガラスの取り付け、そんな使われ方をしております。」


国内トップシェア!

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 「国内シェア60%、海外でも市場の4割以上を占めています。世界規模で見て半分以上が前田製作所です」と土屋社長。欧州を中心に47カ国に輸出している。国内では造園業者や石材業者に販売しているが、欧州では石造りの建物の外壁を傷つけることなく建物内に入れることが好評で、室内工事などで活躍している。

 輸出先を訊ねると、「一番は欧州、次は豪州、米州と続きます。いわゆる先進国が多い。」とのこと。「中国のように新しい建物をどんどん建てるのでなく、再開発事業、狭いところに入って作業する需要にマッチしたんだと思います。」

進化する「かにクレーンの前田製作所」

現場の声から誕生「新しいかにクレーン」

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 本社ショールームに展示される「かにクレーン」、先端部分はアンテナのような黄色い十字の金属部品が取り付けられている。吸盤が付いた欧州使用で、これでガラスを持ち上げるという。
 「世界各国の現場ニーズに合わせ、いろいろなアタッチメント(付属部品)を開発しました。空港では飛行機のメンテナンスなどに使用されています。」

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 海外向け製品は、はじめから意図して造られたのか?
 「いえいえ、こうした使われ方は海外に出してみてはじめて分かったんです」と土屋社長。世界47カ国で販売するにあたり、前田製作所が一番大事にするのは販売代理店だ。「売るだけでは困る、サービス力が重要です。サービス店からの注文に対してなんでも造れる技術を大切にしている。」現場の声から、世界市場にマッチした新タイプの「かにクレーン」が生まれていった。


大事にしているのは「安全と品質」

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 本社ビルに併設する工場内では、大小10台ほどの「かにクレーン」が組み立てられていた。
 「国内トップシェアではありますが、もともとがニッチ商品。」年間販売台数から予想して事前に生産する方式で、月に35台程度が長野で組み立てられ全国、世界へと出荷される。

 前田製作所製造部設計課の伊藤康志さんに、開発の中で一番大事にしているところを伺った。
 「まずは安全。これが一番上に立ちます。その次に来るのが品質。この2つをなくして設計は出来ませんので、この2点は確実に守るよう設計を進めています。」
 組み立てのスタッフは6人程度。若手も多い。ライン生産方式を導入しているが「社員は全部の工程をひとりでできる」とのこと。1台に使われる部品はおよそ700点にも及ぶ。「ネジを回したら、ここに印をつけるようになっているんです。」ネジのあたまに塗られた黄色いマーカー。こうしたひとつひとつの工程が世界に認められる「安全性」と「高い品質」を作り上げている。


販売業も「サービス力重視」

  前田製作所の設立は1962年。大手ゼネコンの前田建設工業が1960年に開設した篠ノ井機械工場が前身で、近くを流れる千曲川や犀川のダム建設を請け負った際、建設機械の製造を手掛けた。1968年にトラックの荷台に搭載する小型クレーンを開発、これを発展させて1980年に発売したのが「かにクレーン」だ。

 「製作所」という名前だが、事業の主力は建設機械の販売やアフターサービス、レンタル事業だ。
 コマツの総販売店として長野県を含め4県で建機の販売や整備を手掛けている。28か所に事業所を構え、修理などの依頼があれば1時間以内に到着できる体制を整えている。かにクレーンの世界販売同様、国内販売事業も「サービス力」を重視している。

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「次の50年へ」新たな戦略

「かにクレーンの前田」をぶっ壊す!?

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  「確かに『かにクレーン』は看板商品ですし、これによって知名度もあがりました。しかし、これからは『かにクレーンの前田』というイメージを払しょくしていきたい。壊していきたいと思っています。」
 今年11月、50周年を迎えた前田製作所。「次の50年」について土屋社長に訊ねたところ、その答えは意外にも「『かにクレーンの前田』をぶっ壊す」というものだった。


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 「これからの時代は、今まで以上に変化が大きくなります。スピードも上がってくる。その時代時代の要請に応えられる製品を生み出していきたい。だから、いつまでも『かにクレーンの前田』では駄目だと思っています。」


介護関連機器の製造!?新製品「クルット」

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 「日本国内で建機はこれ以上伸びない。前田製作所は『製作所』として『ものづくり』にこだわり、新しいものづくりを進めていきたい。」と、土屋社長。
 得意の建設関連だけでなく、農業関係や介護・医療分野など新たな挑戦をはじめた。そのひとつが、今年から製造販売をはじめた介護用車いすのタイヤ洗浄機「クルット」だ。

 建設機器製造から、介護関連機器製造へ。まったく異分野への挑戦のようにも見えるが、レンタル事業現場の声が、開発の原点だった。
 前田製作所は建機レンタルを手掛ける一方で、2005年に新たな収益の柱を確保するため車いすやベッドなどの介護用品レンタルの子会社を設立し、現在、長野、愛知、三重、山梨の4県に計9拠点を設けている。

ものづくりを「ここに残したい」

  「車いすは返却された後、タイヤやシートなど手洗いしています。とくにタイヤの溝に入った泥などを落とすのは大変な作業。『簡単にならないか』という現場の声が、開発のきっかけです。」回転ブラシ付きの洗浄機に車いすを載せると、10分程度でタイヤを洗える。ブラシ位置の調整なども簡単にすることで、さまざまなサイズやタイヤ間隔にも対応できるようにした。
 「試作品はすぐに子会社の現場で試すことができ、その都度改良を加えた。フィールドテストもばっちり」と、自信の仕上がりだ。

 「少子高齢化が進む日本では、ものづくりもどんどん外(海外)へ行ってしまう。そんな中、意地でもものづくりを日本に残したい、ここ(長野県)に残したい。最後は腹をくくってやっていくってことですね。」メイドイン長野にこだわる前田製作所は、「次の50年」に向け確実に歩みはじめている。

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【取材日:2012年11月13日】

企業データ

株式会社前田製作所
長野県長野市篠ノ井御幣川1095 TEL:026-292-2222
http://www.maesei.co.jp/