[サイプラススペシャル]207 国立長野高専「長期インターンシップ」 企業の現場で学ぶ“活きた”知識

長野市(国立長野高専)/東御市(ミマキエンジニアリング)

国立長野高専×ミマキエンジニアリング

とてつもなくでかい!業務用インクジェットプリンター
ミマキの現場で学ぶ!3人の学生たち

 案内された1階ショールームには、大人が両手をいっぱいに広げたよりさらに大きなプリンターがずらりと並んでいます。これが、長野県東御市に本社を置くミマキエンジニアリングが手掛ける「業務用インクジェットプリンター」です。
 これらのプリンターは、紙だけでなく、布やプラスチック、カンバスなど多様な素材に印刷することが可能で、広告看板や、ネクタイやスカーフといった衣料品、さらには工業製品の塗装まで、幅広い分野で活躍しています。

 今回のものづくりナガノの主役は、大型プリンター…ではありません。業務用プリンターづくりの現場で学ぶ3人の学生さんたち、国立長野高専の「長期インターンシップ」をご紹介します。

今年で10年目!長野高専「長期インターンシップ」

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新型プリンターを開発しています!

 「企業で、実際に生きる知識を学んでいます!」
 業務用大型プリンターをつくるミマキエンジニアリング。看板や布地用などのプリンターで、長野県でつくられた製品は世界中に出荷されています。広告看板などサイングラフィックス市場向けの売上が6割以上を占め、国内ではトップシェアを誇ります。
 「色々なものに印刷したい」という顧客の声に応えるため、紫外線で固まる新しいインクを開発、プラスチックや金属、ガラスなどに直接プリントすることが可能 になりました。

 大型プリンターが並ぶショールームに、3人の若手の姿。実は彼ら、国立長野高専の学生たちです。去年10月から「長期インターンシップ」としてミマキエンジニアリングで研究開発に携わっています。
 「新型プリンターを開発しています。」というのは、国立長野高専生産環境システム専攻の山口貴正さん。山口さんはじめ、インターンシップに参加するのは、一般の大学の3年生に相当する「専攻科」の1年生たちです。


専攻科1年生24人全員を派遣!

 高専...高等専門学校は中学卒業後に入学する学校ですが、大学や短大と同じ「高等教育機関」です。5年間学んだ学生は、メーカーなどへの就職や4年制大学への編入のほか、高専に併設される2年制の「専攻科」への進学という選択肢があります。

 国立長野高専・専攻科のインターンシップ制度は、2003年度からはじまりました。これまで延べ88の機関に258人が派遣されていて、10年目の今年は専攻科1年生の24人全員が、長野県内外の20の企業などの現場で勉強中です。
 期間中、学生たちは通学せず遠方の企業の場合いわゆる住み込みで勉強します。学生たちに求められるのはレポートの提出だけ。受け入れ先の職場と学校がしっかりとサポートしているからこそ、成立する制度です。

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期間はなんと4か月!

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学生と職場のギャップを埋める!

 「いちばんは、学生と職場のギャップですよね。これを学生のうちに埋めるということは、学生にとっては非常に大きなメリットです。」そう笑顔で語るのは、ミマキエンジニアリング代表取締役会長の池田明さん。自身も国立長野高専の卒業生です。
 期間中は学生たちを会社の独身寮に住まわせ、社員がつきっきりで指導するとなれば、企業側の負担も少なくありません。それでも、ミマキエンジニアリングではインターンシップ制度がはじまった10年前から毎年、学生たちを受け入れてきました。

 池田会長は続けます。「学生たちが、実戦で企業の中に入って経験して帰っていくということは、地域にとっても大事なんじゃないかなと思います。もちろん、会社にとっても現場で働いてもらうことでのメリットがあるし、指導にあたる社員にもよい影響があると思っています。」
 5年間しっかりと専門知識を身につけた高専の学生たちは、地元企業にとっても「ぜひ欲しい人材」です。ほぼ毎年、高専の卒業生を採用しているミマキエンジニアリングでも、インターンシップの重要性が認知されているようです。


学校の勉強より楽しい!

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 「社員の方々と実際に『仕事』をさせていただいているんですが、学校での勉強より正直言って楽しいです」と、国立長野高専・電気情報システム専攻の渡島直也さん。
 「以前から、将来は技術者になりたいと思っていました。現場で学ばせていただき、その夢がより確かなものになりました。」同じく電気情報システム専攻の飛田健さん。参加している学生たちの反応は上々です。

 「インターンシップを導入する工学系の大学は増えてきていますが、10年前から、しかもこれだけ長期間実施しているのは、国立長野高専ならでは。非常に珍しいですし、学生たちにとってもメリットが多い制度だと思います。」期間は10月から翌年の1月まで、なんと4ヵ月間。長野高専副校長で、インターンシップ運営委員の山崎保範先生も、これだけ長いものは全国の高専・大学でも珍しいといいます。

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「ものづくり立国」長野だからできるインターンシップ

研究開発型企業!ミマキエンジニアリング

 飛田さんはモーター関係のソフトウエア開発、渡島さんは設計の評価分門、山口さんは新型プリンターの機構設計と、3人の学生たちはそれぞれ違った現場に配属されています。
 こうした学生たちを受け入れる背景には、社員のおよそ3分の1が製品開発に携わり、売上の7~8%を開発費に投入している研究開発型企業ミマキエンジニアリングの特徴があります。

 インクジェット技術であたらしい可能性切り拓く姿は、市場開拓にも繋がっています。ミマキの海外売上比率は70%、国内での生産規模を維持しながらより飛躍するため、2007年に中国に設立した製造子会社を増強し、現在ではおよそ120名の生産規模となっています。世界市場で戦うため、トータルなコスト競争力を高める戦略です。

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地域の企業と一緒に!ものづくり人材育成

 インクジェットプリンターの特徴は、小ロット。大量に同じものを印刷するにはもっと安価な方法もありますが、数枚しかつくらない屋外看板などで強みを発揮します。さらに、ネクタイやTシャツなど衣料品分野では、これまで不可能だった少量多品種生産が可能になりました。ミマキ全体からすると衣料用は8%程度ですが、ファッションの先端をいくヨーロッパでも高く評価されています。
 なぜミマキは、今までなかった新商品を開発できるのでしょうか?
 「ミマキの強みはインク、それからトータルで開発していること。機械だけでなく、最初の工程から後の工程まで全部ひっくるめて顧客ニーズにこたえる製品を提案・提供しようと、そういう風にやっている」と、池田会長。まさに世界で戦うメイドイン長野です。

 ミマキエンジニアリングに限らず、世界で活躍するものづくり企業が多い長野県。国立長野高専の「長期インターンシップ制度」は地域の特色を生かした、まさに「活きた」勉強になっています。

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【取材日:2012年12月18日】

企業データ

(学校のご案内)国立長野高専

http://www.nagano-nct.ac.jp/