信州大学工学部 千田・池田研究室
完成すれば農業機械の革命!!
ホウレンソウ収穫ロボット試作3号機
「JAや地元ものづくり企業と一緒に開発中!ホウレンソウ収穫ロボットです。」 キャンパスで試験走行しているのは、信大工学部が開発中の「ホウレンソウ自動収穫ロボット試作3号機」です。特別な動きをするカッターでホウレンソウ根元からていねいにカットし、そのまま収穫します。
【特集】スゴいぞ!信大工学部。今回ご紹介するのは、機械システム工学科で「制御工学」を研究する千田有一先生です。「制御工学」とは、いったいどんな学問なのでしょうか?
「もしこの機械が実現すると、世界初、農業機械の革命といわれています。」そう説明するのはロボット開発を担当した工学部修士2年丸山寛智さん。信大工学部が地元JA全農長野、同じく地元長野県坂城町のものづくりメーカー西澤電機計器製作所と共同で開発中の「ホウレンソウ自動収穫ロボット試作3号機」です。
ホウレンソウ収穫ロボットは縦横高さともに1mほどの銀色の車体で、ロボットというより田植え機や稲刈り機といった農業機械という印象です。ロボコン大会に出場するマシンのようにも見えます。機械前方で野菜をカットするのは稲刈り機の仕組みと一緒ですが、水稲と葉物野菜の一番の違いは、野菜の柔らかさです。
「ホウレンソウのような柔らかい野菜の収穫はすべて人の手。農業が進化しても、いまだに自動化されていません」と、丸山さん。ホウレンソウのみならず、長野県の特産であるキャベツやレタス、白菜などの葉物野菜は、生産者がひとつひとつ手で収穫しています。
「柔らかい野菜に傷つけず収穫する」ここに千田先生の「制御工学」が活かされています。ホウレンソウの収穫は、根本から数センチ下を切るようにしなくてはいけません。根本より上だとホウレンソウがバラバラになってしまいますし、逆に地中深くまでもぐりこんでしまうと、小石などで刃が傷んでしまいます。
「農業機械の革命」とまで言われるこのロボットのキモは、ホウレンソウを収穫するカッターの部分。全面に突き出した鋭角の機器が土の高さや凹凸を判断し、野菜が傷つかないようカットします。
地面の高さをセンサーでキャッチし、それに合わせカッターの高さを微妙に調整させる...というのがホウレンソウ収穫ロボットのスゴイところです。
ところで千田・池田研究室の研究テーマ、制御工学とはいったいどんな学問なのでしょうか?
「一言でいえば、動きを予測して、意のままに操るための学問です」と、千田先生。機械やロボットなどの「動き」を知り、そこから次の動きなどを予測、最適な動きをつくり出す研究だといいます。
「ちょっと難しいですよね。では、実際にこちらをご覧ください」と、案内された研究室の机上には、セグウェイを小型化したような形の「実験用並行型二輪車」が置かれています。
ふつう二輪のクルマは、上手にバランスを取らないと倒れてしまいます。しかし、この実験用の「平行型二輪車」は、手で力を加え前後に動かしても、あら不思議、倒れません。
「二輪車が倒れかかっていることをセンサーで検知して、倒れる前に車輪を自動で前後させています」と、4年種村昌也さん。
動きを予測して、思いの通りに動かす。これを極めるのが千田先生の「制御工学」です。
「私の研究しているのは、『空圧式除振台』」です。精密機器を載せるため、極力揺れない台座を造っています。」博士3年小池雅和さんらが研究する除振台(じょしんだい)。聞きなれない器具ですが、小さな振動を取り除くための台です。
「ちょっと試してみましょう」と、小池さんが取り出したのはボール。除振台と呼ばれる機械仕掛けの四角い台座の上にボールを落とすと...たしかにスイッチをオンにした場合、オフ時に比べ振動が少なくなっていました。
「精密加工などを行う場合、少しの振動も取り除く必要があります。そのための装置です。」小池さんは除振台の性能をさらに向上させる技術を開発し、研究成果は専門団体からも顕彰されました。
制御するためには、動きを知る・検知する必要があります。そのためにも、物体の動きについて様々な研究をしています。
「私は野球ボールの回転速度を計るためにボールの中にセンサーを埋め込みました。」修士2年関口彰太さんが研究しているのは、「野球ボールの回転速度計測システム(吉松俊一医師・西澤電機計器製作所と共同開発)」。簡単に言うと、より鋭い変化球を投げためのトレーニング装置です。
ボールの回転を正確に測定できれば、「どういう投げ方をすれば、どのくらい回転かかるので、ボールがどう変化する」というのがより明確に分かります。腕や肩への負担を最小限に、新しい変化球の開発も可能...かもしれません。
「制御工学は、動くすべてのものが対象になる科学技術です」と、千田先生。「機械やロボットはもちろん、『動く』という意味では人間の体も同じです。株価などのデータも、時間とともに変化する『動く』ものと考えることもできる。制御工学やシステム科学は、現在のように複雑化した社会の基盤技術として、重要性が高まっています。」
「ホウレンソウ収穫ロボット」「倒れない二輪車」「振動除去装置」「変化球測定ボール」など今回ご紹介した技術のほかにも、ハードディスクの位置決めや、転倒による骨折防止など、地元企業などと一緒に様々な研究をしている信大工学部千田・池田研究室。 「社会に役立つ技術の開発を目指していきたい。」機械を意のままに操ることで、ものづくりの新しい価値を創造していきます。
信州大学工学部 機械システム工学科千田・池田研究室
長野県長野市