長野県長野市
信州大学工学部教授 髙木直樹
私たちの研究は地球温暖化を防ぐこと
ヒートアイランドを防止する「栗の木」!?
「わたしたちの研究は、地球温暖化を防ぐことです。」
4人の女子大学生たちが立っているのは、茶色のタイルのように見える舗装面。よく見ると、ひとつひとつに「年輪」が見えます。
実はこの地面は、「栗の木」で舗装されているのです。
信州大学工学部のスゴいものづくり研究をご紹介する「スゴいぞ!信大工学部」。今回は、地球温暖化防止を研究する、建築学科の髙木直樹先生をご紹介します。
長野駅東口から徒歩20分、自然環境にめぐまれた信州大学工学部キャンパスは、広々とした敷地と、緑が多いのが特徴です。キャンパスの南側に広がるグラウンドの隅の一角に、髙木先生の実験設備があります。
2m四方に区切られた4つの枠は、それぞれ「普通のアスファルト」「水を通すアスファルト」「栗の木舗装(下がコンクリート)」「栗の木舗装(下が砂地)」。学生たちが自らつくった様々な舗装面です。
いったい、ここで何を研究しているのでしょうか?
「ヒートアイランド現象の把握と解析をしています」と、信州大学工学部建築学科の髙木直樹教授。
ヒートアイランド現象...
都市部だけが周辺に比べ異常なほど高温になる現象で、夏の熱帯夜だけでなく、冬も都市部の気温が下がらないなど、自然環境や私たちの生活や健康にも影響を及ぼすようになってきました。実際、ヒートアイランド現象の影響で、ここ数年東京での冬日(気温がマイナスになる日)はほとんどなくなりました。
「ヒートアイランドの原因の一つが、アスファルト舗装なんです。」
4つの舗装面には、地中に埋め込まれた温度測定機や、表面温度を測定するサーモカメラ、上昇気流を測定する機器などが設置されています。
「太陽の日射を浴びると、アスファルトは60℃を超えることもあります。」
夏場のプールサイドを思い出してください。裸足で歩くと、足の裏がやけどするくらい熱かった記憶はないでしょうか?
「普段は靴を履いているので気がつかないんですが、夏の道路は裸足では歩けませんよ...アスファルト以外の舗装面ができれば、ヒートアイランド現象を防ぐことができる可能性がある。そのために『栗の木舗装』などの他の舗装面を研究しています。」
髙木先生の専門は「環境工学」。
いったい、どんな学問なのでしょうか?
「快適でエネルギーを使わない建物や街づくりを通じて、人と自然にやさしい都市環境を考える学問です。」
研究室のパソコン画面に映し出された色鮮やかな画像。よく見ると、見慣れた景色。長野駅前付近の駐車場から眺めた光景です。
カラフルな画像は、温度がわかるように色づけされたシミュレーション映像です。
「街中に温度計などを設置し、実際の温度を測定しました。そのデータをもとにパソコンで解析し、わかりやすいように映像にしました。」
「シミュレーションから、実際に街の中のどこに木を植えれば良いかが分かるので、街づくりの提案などが行うことができます」と、建築学科専攻修士2年の奥村祐麻さん。
パソコン画面をクリックすると、今度は駐車場わきに街路樹を植えた場合のシミュレーションが映し出されました。
赤などの暖色系が多かった先程の画像(つまり高温になっている)と比べると、たしかに(温度が低い)青い部分が多くなっています。
「木を植えれば、木陰や蒸散の効果でアスファルトの温度は下がります。ただ、実際に工事となるとお金もかかるし、やり直しも難しい。どこに植えれば一番効果的なのかを考えるためには、こういうデータが役立つと思います。」
「建築学は総合的学問です。建物の構造を研究する人もいれば、使われる材料を研究する人もいます。都市計画やデザイン性も重要ですし...本当に多岐にわたる学問です。その中でも私は、『都市環境』を研究テーマにしています。」
髙木先生の研究「環境工学」。もう少し正確に表現すると、「建築環境工学」「都市環境工学」という分野に分けられるそうです。
髙木先生の研究のスゴいところの一つは、実際に街づくりに活かされる点。地域の環境セミナーでの講師などでも引っ張りだこ。長野県や市町村の環境政策などにも研究内容が活かされています。
その一例をご紹介しましょう。
長野市からクルマで30分、上高井郡小布施町。
葛飾北斎をはじめ、歴史的遺産を活かした「まちづくり」で人気を集め、今や北信濃の中でも有数の観光地として多くの観光客が訪れる町です。
その葛飾北斎の「八方睨み鳳凰図」でも有名な岩松院のすぐそばに、町と共同でつくった髙木先生の研究室「環境研究所」があります。先生は、町内の気温や風、日射などの基本データを集め、まちづくりに活かそうとしています。
「小布施町でもこれまでにも、ゴミの削減施策など環境に優しいことをいっぱいやっています。」
たとえば「雨水貯水タンクの購入補助」や「生ごみたい肥化の推進」など、町の生活環境に関する施策は様々おこなわれています。
「私たちは、そういった活動を体系づけてあげることによって、小布施町を長野県の地球にやさしい街のモデルとして発信していきたいと考えています。」
まちづくりに力を入れる小布施町らしい取り組みですが、課題は科学的根拠に基づいた体系だった環境施策が課題...ということで、髙木先生はひとつひとつの取り組みをつなぐための研究をはじめました。
小布施中心街の路地にある「栗の小径(こみち)」。
アスファルトでなく、小布施名産の「栗の木」で敷き詰められています。町並み修景事業の一環としてつくられた遊歩道ですが、「ヒートアイランド現象防止にもつながる」と髙木先生。
現在「環境研究所」では、定期的に町内の調査を行っています。気温、湿度、風速といった気象データだけでなく、町内の交通量や、栗の木など果樹のCO2吸収量なども調査しています。
「小布施町の取り組みはモデルケースになると思います。長野県発の『環境にやさしいまちづくり』を全国に広げていきたい。」髙木先生の研究が、地球環境を守ります。
(研究室のご案内)信州大学工学部 髙木直樹教授