[サイプラススペシャル]54 信州みそにイノベーションを起こす 消費者発想から生まれた『液みそ』

長野県長野市

マルコメ

ニッポンの救世主になる!?
これまでの概念を打ち破る液状みそ

 今や“MISO”として世界各国からも高い評価を得ている、日本独自の調味料・みそ。なかでも全国トップシェアをほこるのが「信州みそ」だ。
 長野県の特産品として確固たる地位を確立する「信州みそ」だが、業界を取り巻く環境は厳しい。原材料価格は上昇する一方、デフレの影響から値下げ圧力は強い。さらに食生活の多様化により国内市場は縮小傾向が続いている。

 そんな逆風の中、イノベーション(革命)が起きた。
「みそは固形物」という概念を打ち破り、2009年に登場した「液みそ」。名前の通り液状のみそがペットボトルに詰められた商品で、見た目が新しいだけではない。消費者のニーズから生まれた調味料のニューフェイスは、業界の救世主となる新しい可能性を秘めている。

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「液みそ」はいかにして生まれたのか?

2009年 みそ業界大ヒット商品

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 「ウソのような、おみそです。」人気男性タレントは、ボトルを傾けとるとさっと鍋の中に液体を流し込む。そして、湯気たちのぼるみそ汁を片手に、笑顔で続ける。「すぐ溶け、すぐうま!」。
 500mlのペットボトルに詰められた「液みそ」のテレビコマーシャルだ。

 「液みそ」は名前の通り、液状のみそ。これまで、袋やパック詰めの固形物だったみそから一転、液体の調味料として2009年3月に発売され、3ヶ月後には100万本を突破、年間300万本の目標に向け、売上を伸ばし続けている2009年のヒット商品だ。

マーケティングから生まれた初めての商品

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 「100万本突破という数字は、業界の中では大きい」。
 年間約300億円弱を売り上げるマルコメにとって100万本は、売り上げ全体の1%程度でしかない。しかし、マーケティング部須田信広が「業界の中で大きな数字」と語るのにはワケがある。

 「はじめてマーケティングから生まれた商品なんです。」須田は、誇らしさと照れくささが混じった笑顔で続けた。
 マルコメは安政元年(1854年)の創業以来、長野市安茂里でみそ作りを続ける。江戸時代から続くみそ蔵に、2008年9月新たに創設されたマーケティング部。須田は、新設された部のチームリーダーだ。

コンセプトは「究極の手間なし」

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 「液みそ」のコンセプトは「究極の手間なし」だ。
 
 「従来のみそに対する『使いづらい』という声が、原点です」と、須田。
 『みそを溶くには手間がかかる。忙しい朝は時間がもったいない』『ダマ(溶け残り)ができるのがイヤ』、『濃さの調整が大変』などの不満を解消すべく開発されたのが、「みそを液体にする」というアイデアだった。

 みそが「液」になっているので、好みの分量を野菜や豆腐・きのこなど具材を煮た鍋に入れて混ぜるだけでおいしいみそ汁ができる。溶かす手間も道具も不要、味の調節も簡単で、冷蔵庫のポケットに収納できる...と優れモノの「究極の手間なしみそ」は、「みそは固体」という奈良時代からの固定概念を打ち破ったからこそ生まれた。

"偶然の産物"ではない

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 「マーケティングから生まれた」と須田が語るように、市場の声に耳を傾ける'マーケットイン'の発想から生まれた「液みそ」。顧客ニーズを満たす商品だから、売れるのは当然だ。
 しかしこの新商品は、決して"偶然の産物"ではない。
 
 「実は、ゼロから開発したわけじゃないんです」と、須田。
 マルコメではもともと、液状みその販売を行っていた。と、いっても一般向けではなく、外食などのみそ汁サーバー用。「大型外食店などプロの調理現場で好評だった液状みそを、一般向けにできないかと考えました。」


誕生のカギとなった"通販"

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 業務用を一般向けにしたら、大成功...というほど、世の中は甘くない。
 「通販で、お客さまの声を直接うかがうことができました。」須田は続ける。現在マーケティング部チームリーダーを務める須田は2004年、通販事業を立ち上げるために召集されたメンバーの一人だった。須田たちが立ち上げた"通販"こそ「液みそ」誕生のカギとなる。

 現在、マルコメでは一般市場に流通させる商品とは別に、独自ブランドの贈答用や天然醸造など限定商品を通信販売している。
 「通販で消費者から、みそは使いにくいという声が届いた。容器に付着するし、ベタベタして扱いづらいと。それらを解消した液状のみそを商品化し、通販で売り出したら通常商品の10倍売れました。だったら、本格的に商品化しようと企画しました。」

 「通常の10倍売れた」と須田が声を弾ませるように、2008年6月に通販限定商品として登場した液状みそは他に類をみない大ヒット。業務用で積み重ねた実績と、通販事業というダイレクトに消費者と向き合うチャネルを持っていたからこそ、「液みそ」は生まれた。

不可能を可能にした開発グループ

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 「液みそ」誕生を語る上で、もうひとつ忘れてはならないのが「技術開発」だ。

 「話を聞いた時には、想像できなかった」と語るのは、研究所グループ開発部中澤武チームリーダー。実際、中澤は「不可能だと思った」という。
 マーケティング部門から意気揚揚と持ち込まれた新商品の提案だが、「半年で大量生産できるようにしろ、というのが業務命令だった」。それから半年間、中澤たちの部隊は「追われっぱなしの開発が続いた」そうだ。


液状でも「みそ感」を損なわない

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 中澤が「不可能と思った」のには、2つの理由がある。
 ひとつは、食品の命ともいえる「味づくり」。もうひとつは大量生産のための「ラインづくり」だった。
 
 中央研究所が完成したのは1989年。以来20年間、地道な研究開発を続けている。
 「もともと液状にする技術はありました。しかし、傾けただけでペットボトルからみそが出るユルさにすると"みそ感"が損なわれてしまいます。"みそ感"と使いやすさのバランスをとることが難しかった。」
 中澤のいう「みそ感」とは、みその風味や舌ざわり、さらにみそ汁の喉ごしなど、みそらしいと感じる味や食感の総称だ。
 生産ラインも、これまでのパック詰めでなくあらたに液状のペットボトルへの充てん設備を開発。開発チームの「追われっぱなし」の開発があったからこそ、市販向けの商品化が可能となった。

 業務用商品があり、通販があり、研究開発があったからこそ誕生した「液みそ」は、決して"偶然の産物"ではないのだ。

「液みそ」がニッポンの救世主になる

全国ナンバーワンにも"逆風"

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 信州発のイノベーション(革命)が、みそ業界はもちろん、日本経済の"救世主"となる可能性がある。

 なぜ液みそが救世主になるかを語る前に、「信州みそ」を取り巻く環境について簡単に説明しよう。
 全国トップシェアをほこる「信州みそ」は年間約19万トンが出荷され、日本国内のみそのおおよそ3分の1を占める。首都圏のみそ蔵がダメージを受けた関東大震災と太平洋戦争をきっかけに、全国ブランドへと成長を遂げた信州の特産品は、地元が一丸となったブランド戦略があったからこその成果だった。
 
 全国ナンバーワンへ成長した「信州みそ」だが、今、業界には強い逆風が吹いている。
 昭和40年代をピークに、国内のみそ消費量は減少傾向が止まらない。世界的な穀物価格上昇の煽りを受け原料の大豆は高騰する一方、デフレ経済が進行するなか小売店からの値下げ圧力は強まる。さらに、プライベートブランド人気は、価格競争に拍車をかける。

「液みそ」は新しい市場を創る

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 液みそが救世主になる可能性のひとつは「新規市場の創出」だ。

 「液みそ」は、新ジャンルとして市場に定着する爆発力を秘める。
 たとえば鍋がおいしい今の季節、スーパーの店頭に並ぶすき焼き・キムチ鍋の他、カレー鍋やコラーゲン鍋などパック詰めされた鍋の素パックは、ここ数年で定番化した。
 鍋の素パックの大ヒットや、基礎調味料に代わり「つゆ」や「タレ」など加工調味料が売上を伸ばす理由は、「より美味しく、より簡単に手料理を楽しみたい」という消費者心理からだろう。

marukome13.jpg  同様に「液みそ」が調味料の新カテゴリーとして定着すれば、消費が伸び悩むみその代替品としてのみならず、新たな市場がつくり出される。誰もが味を知る馴染みの調味料だからこそ、「利便性」が浸透すれば、鍋の素パック同様、爆発的に拡大する可能性が高い。

 たとえば「ポン酢」や「エリンギ」が新ジャンルを確立した裏には、しょうゆやシイタケの代替品としてだけでなく、新しい食べ方・使い方を提案し続けたメーカーの戦略があった。
 同様に「液みそ」のホームページでは、「みそすき焼き」や「和風みそハンバーグ」「みそカレーライス」など様々なレシピが掲載され、従来のみそにはなかった新しい提案がなされている。

 マーケティング担当の須田が「1社で独占しようとは、思っていません。『ダシ入りみそ』のように、どんどん他のメーカーさんにも作ってもらいたい」と話すように、信州みその新たな市場確立に期待がかかる。
 2000年のITバブル崩壊後の不景気時、大型薄型テレビやDVDレコーダーという新規市場の創出によって、それらの製品や部品のメーカーが大幅に業績を改善したように、「液みそ」は業界の救世主になりうる可能性をもっている。

ライフスタイルを変える可能性

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 「液みそ」の2つ目の可能性は、ライフスタイルの変革だ。

 開発コンセプトである「究極の手間なし」の発想は、冷蔵庫や電子レンジ、電気炊飯器、あるいは全自動洗濯機の登場と同じインパクトを持つ。手軽に使えるみそは、働く女性の強い味方になる。

 さらに食育(しょくいく)の面からは、子どもたちが毎日朝ごはんを食べる習慣の一助になるだろし、若年層へのみそ汁の普及は栄養面から生活習慣病などの予防にも繋がる可能性がある。しかも、みそ汁の拡大はコメの需要拡大を意味し、つまり国内農家の育成の特効薬になるかもしれない。

イノベーションがデフレを断ち切る

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 3つ目の可能性は、デフレの悪循環を断ち切るチカラだ。

 デフレスパイラルと呼ばれる経済縮小の悪循環を断ち切るひとつの方策は、価格競争に巻き込まれない「高付加価値商品」だ。値段の安さだけでなく、消費者が欲しいと思える機能が付加されることで、価格下落に歯止めをかけることができる。
 ちなみに「液みそ」は500ml約350円。1本でみそ汁約30杯分、みそ汁1杯あたりで計算すればカップ入りや袋入りに比べ格段に高い「割高商品」だ。もちろん競合他社が参入し価格競争へと突入する可能性はある。しかし、そもそも既存のみその価格とは一線を画す値段設定にも関わらず売れている。

 信州みそのイノベーション、「液みそ」。こうした新たなものづくりの積み重ねが続けば、ニッポンの未来は明るい。

【取材日:2009年11月10日】

企業データ

マルコメ株式会社
長野県長野市安茂里883 TEL:026-226-0255
http://www.marukome.co.jp/