[サイプラススペシャル]58 夢が広がる“美しい”プラスチック加工 「逆風の中」45億円企業へ

長野県佐久市

長野吉田工業

 100年に一度の不況下にあって、2009年9月期の売上が、前期を5億円上回り45億円超という企業が長野県佐久市にある。プラスチック加工、特に化粧品や食品分野の容器を製造している長野吉田工業である。
 長野吉田工業は、エムケー樫山グループと吉田プラ工業の合弁会社だ。エムケー樫山グループ12社(補修用ブレーキ部品の国内トップメーカーであるエムケーカシヤマ・精密金型のカシヤマ金型工業・樹脂素材研究のウィンテックなど)の一翼を担いつつ、化粧品の容器では国内の8割以上のシェアを持つ吉田プラ工業グループの吉田コスメワークス長野工場でもあるという2つの顔を持つ。設立1960年、2010年は、50周年の節目の年をむかえる。従業員173名、「世界不況」に負けない元気なものづくりの現場を訪ねた。

容器までもが美しく-化粧品容器

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 長野吉田工業の代表的なプラスチック加工技術は、「インジェクション成形(=射出成形)」と「ブロー成形」である。インジェクション成形とは、英語で「InjectionMolding」と呼ばれ、あらかじめ型が彫り込まれた金型へ、加熱して流動化した樹脂を射出し、冷却し、成形品を作る方法のこと。しかし、長野吉田工業の技術は、この金型の中にフィルムが入っていて、本体の成形と同時に表面の加工ができるインモールド成形と呼ばれるもので、容器製造の加工工程を短縮し、コストダウンにつながる高度な技術だ。主に化粧品容器の製造に使われている。

 長野吉田工業の化粧品容器の製造は、クリームのキャップからスタートし、現在ではコンパクトケースや液体の化粧品用ボトルにまで製品の種類が広がっている。部品加工も請け負うが、金型製作から、成形や加工までの一貫生産が特徴である。化粧品は、「美を追求」する商品。その容器は、美しくなければならない。容器は、売り上げを左右する大きな要素である。使う人、使う場所や場面を考えた機能とともに、思わず手に取ってみたくなるような美しい個性的な容器が求められている。しかも、価格はリーズナブルでなければならない。

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 「最新の製品はお見せできませんが」と出されたコンパクトやパレット型のケースは、曲線を使ったフォルムと高級感が印象的だ。ベースの色は、紫色や、黒、ピンクといったその時々の流行やお客様の好みが反映している。手に取ると、見た質感よりもずっと軽く、開け閉めにも無理がない。特に、「加飾」と呼ばれる表面の装飾加工が心を捉える。塗装は専門業者に依頼するというが、丸みを帯びたコンパクトの表面に浮き出る花模様、黒いケースにあしらわれた銀色の縁取りのライン、漆黒の表面に金や銀の箔で型押しされた着物の柄のような彩りやグラデーション模様、などなど、どれも長野吉田工業の「加飾」の技術だ。微妙な曲線を生み出す金型作りと成形技術、表面に施すホットスタンプやスクリーン印刷といった加飾のノウハウは、化粧品の企画意図を的確に商品化する技術、50年間の蓄積は、他社を圧倒する。

"ニッチ"市場で存在感-多種少量品のペットボトル

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 売り上げに貢献しているもう一つの分野が、飲料・食品・洗剤などのペットボトル製造である。ここでは「ブロー成形」の技術が生きている。これは、金型に流し込まれた原料の樹脂に圧縮空気を送り込み、樹脂を押し広げて成形するやり方で、外観を思いのままに仕上げられ、軽量の中空容器の量産に適している方法だ。

 たとえば今回の新型インフルエンザの流行で、そこここにおかれているアルコール消毒用のペットボトル。今すぐ必要、しかも設置場所は増える一方で、数も確保したい。しかし、需要はいつまで続くかわからないという製品だ。このような製品には、金型をおこして試作品を作り、その金型を使って海外で生産、製品を運んでくるというような時間はかけられない。とにかく「早く」「大量」に欲しいのだ。

 また、食品分野のペットボトルのメーカーの思いも同様だ。多様化する消費者の好みを反映して、商品そのものは多品種、サイクルも短く、種類ごとの生産量は多くない。つまりはボトルも、中身の特徴をきわだたせつつ、多品種少量になってきているのだ。

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 このようなニーズに対応するのが、長野吉田工業である。以前は受注から3ヶ月かかったものが、今は、ものによっては1ヶ月でも可能だそうだ。CADで設計、光造形機を使った3次元の製品試作、早ければ3日で試作品の生産までできる。金型製作がポイントではあるが、成形加工には、化粧品用ボトルの一貫した生産力のノウハウが蓄積されている。そして「人」。社内には、国家資格であるプラスチック成形技能士の1級所持者が10名近くいる。また、4年前から、社員は40人以上ふえているが、その中には、プラスチック成形技術の経験者が何人もいる。製品製造には24時間生産が可能な設備があり、ペットボトル製造分野での存在感を高めている。一貫生産のスピードと、1ヶ月で2000種類の製品を作ることもあるという量への対応は、大量生産から、少量多品種の時代への動きをとらえた長野吉田工業の力である。

「SK50運動」から生まれた自社ブランド

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 しかし、長野吉田工業は、とどまることなくさらに前進している。率いるのは樫山徹社長である。壁に掲示してある経営中期目標「SK50運動」について語る。「50周年を迎え、合理化・省力化を実践し、生まれ変わった強い会社にしよう、これを我々はSK50(エスケーゴーマル)運動といっているのです。」生産のSと革新のK、50周年ということで「SK50運動」と名付けたという。

 特筆すべきは、この運動から初めての自社ブランド製品「フレックスカートナー=(化粧品用の)箱を作る機械、箱折機」が生まれたことだ。化粧品の箱の組み立ては、種類も多く、傷や汚れも許されないため、人が組み立てるしかなかった。この非効率な作業を何とか省力化できないかと05年頃から、開発を始めたという。基本の考え方は、「今、一般的に使われている器具は付加価値が付きすぎていて使いにくい。簡単で誰もが使える機械を作ろう」というもの。思わず頷いてしまうコンセプトだ。そして完成したのが、動力はモーター一つ、パソコンは使わない、大きさや位置は、決まった箇所の数値を調節するだけと簡便な取扱、しかも工程のスピードにあわせて生産ラインに組み込むこともできるという、この「カートナー」である。段取りも簡単で、当初は社内で使用していただけであったが、展示会に出したところ引き合いがあり、09ジャパンパックに出展し、アワード実行委員長賞を獲得、今や、社内外の注目の製品となっているという。

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 自社ブランド製品を出すことが目的ではなく、合理化・省力化を進める中から、自社ブランドで販売できる機器が開発される。これが、逆風の中、売り上げをのばしてきた原動力といえる。

 樫山社長は「カートナーはSK50運動の一つの成果です。さらに進めると100だったものが200になる可能性がでてきました。新しい技術にも取り組んでいます。それらの積み上げや付加価値がカートナーと同様、社外からも評価されてきているのです。」と表情を緩める。

「LLP佐久咲くひまわり」のメンバーとしても

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 長野吉田工業は、環境省が全国で展開している地域新エネルギー事業プロジェクトの一つ「LLP佐久咲くひまわり」メンバーでもある。小田井工場には、100KWの太陽光発電システムが設置されている。このシステムで賄うのは自社の消費電力の3.5%、太陽光発電に代表される環境活動も、効率化という意味では「SK50運動」の一環である。

工場へ入るには、もちろん防塵服に帽子を着用、上からも横からもエアーシャワーを浴びるという厳しさである。場所によっては粘着テープを使ったローラーも使用しなければならない。扱う製品が食品や化粧品分野だけに、一番の大敵は、人の髪の毛と外からはいる虫なのだそうだ。クリーンな環境が品質を保つために欠かせない要素だ。

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 工場内には「場内毛髪0化強化月間」の文字も見える。さらに区切られたスペースには、加湿器も設置され、内部の圧力をあげて、ホコリが外から侵入しない様な調整も行われている。虫については、どんな虫が何匹入ったかという調査を欠かさず行い、対策を講じるという。製品一つ一つが長野吉田工業の信頼をつくってきたことを実感する場面である。


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 化粧品用容器についても、また、食品用の多品種少量のペットボトルについても、大手が参入し難い「ニッチ」な分野で技術を蓄積して50年、長野吉田工業の技術の成果は、今、自社ブランド製品としても、大きく飛躍しようとしている。

【取材日:2009年12月4日】

企業データ

長野吉田工業株式会社
長野県佐久市大字中込3421 TEL:0267-62-7771
http://www.naganoyoshida.co.jp/