[サイプラススペシャル]115 新素材「レア・プラスチック」を世界へ 素材にこだわり続けて115年

長野県長野市

NikkiFron日本機材

東京ビッグサイトで開催「JAPAN SHOP 2011」
“メイドインナガノ”の新素材登場

 3月8~11日、東京ビッグサイトで開かれた、国内最大規模の店舗総合見本市「JAPAN SHOP 2011」。インテリア素材や照明・看板など、魅力的なお店づくりに欠かせない製品やサービスなどが一堂にあつまった。
 LEDライトや壁材など、多くの展示の中でひときわ目を引いたのが、“メイドインナガノ”の新素材「レア・プラスチック」だ。長野市の素材加工メーカーNikkiFron日本機材が開発した特殊素材に秘められた、ものづくり企業の挑戦の姿に迫る。

永遠の白さ「レア・プラスチック」

うちにしかできない技術を、すべてつぎ込んだ

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 「うちにしかできない技術を、すべてつぎ込んだ『作品』です。」
 展示会場で説明する、日本機材・機能樹脂事業部の渡辺喜久雄執行役員が「技術をすべてつぎ込んだ」と自負する作品群。ひときわ白さが際立つミロのビーナス像や、なめらかなウサギの置物、細かな造形がほどこされた一輪ざしなど、すべてNikkiFron日本機材が独自に開発した「レア・プラスチック」でつくられた「作品」だ。

 「普通のプラスチックと、質感と量感が違う。」店舗什器を見に来たという女性も、実際に触れた新素材に驚いた。「質感と量感が違う」の言葉どおり、レア・プラスチックを手に取ると、ずしりと重い。磨かれた表面は極めて滑らかで、それでいて無機質でない、ぬくもりある肌触りだ。

まったく新しいコンセプト

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 「一番のポイントは、永遠の白さ。そして、この質感です。」 新素材でつくられたまっ白いボールを手に説明する日本機材・春日秀之社長の後ろには、熱帯魚用の水槽。サンゴや巻貝の形に加工されたレア・プラスチックが、水中で幻想的に白く輝く。
 水中でも、光を受けても、空気に触れても、時が経過しても、透き通るような白さは変わらない。「まったく新しいコンセプトのもとに、開発している」と、春日社長。「永遠の白さ」に、新素材の新しい可能性を見出そうとしている。

原料は希少な鉱石「ほたる石」

 名称こそプラスチックだが、レア・プラスチックは他の樹脂とはまったくの別物。原料は石油でなく、紫に輝く宝石の原石「ほたる石」という希少な鉱石だ。「鉱石を粉末状にして、固める。さらに削りだし、ひとつひとつ磨きあげ」こうした形にすることができるという。

 長野市に本社を構えるNikkiFron日本機材。現在の主力は、半導体製造装置など特殊樹脂の最先端部品のほか、繊維強化プラスチックを用いた自動車部品、プラスチック射出成形機の組立製造など。幅広い事業を手掛ける。
 なぜ「ものづくり企業」が、芸術品と見紛うような商品をつくり、店舗総合見本市に出展したのだろうか。

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素材開発型企業NikkiFron

3事業の核になる「素材」

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 「我々のこだわってきた『素材』の、魅力や価値観を皆さんに知ってもらいたい。」工業展でなく、店舗向け展示会へ出展した意図について、春日社長は「素材の魅力、価値観を知ってもらうため」と、語る。

 春日社長が「素材」にこだわるのには、理由がある。特殊樹脂部品、繊維強化プラスチック、精密機械組立製造と大きく3つの事業を展開する「ものづくり企業」NikkiFron日本機材。3事業を結ぶ核になるのが「素材」だ。

創業明治29年 時代とともに業態転換

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 NikkiFronの創業は明治29年。「春日商店」という麻問屋としてのスタートだった。当時、麻は貴重な天然繊維。明治・大正と、日本の近代化とともに需要が拡大し、順調に業績を伸ばした。
 転機は、太平洋戦争。麻が軍事統制物資に指定され、個人商店で扱うことができなくなる。「麻の新たな可能性に賭けたい」春日社長の祖父は、統制外の「クズ麻」と、長野県の特産である「絹」を組み合わせ、新素材「絹麻パッキング」を開発。問屋という商業の道から、ものづくりという工業へ、大きく業態転換した。

 新素材絹麻を原点に、時代とともに全国屈指の織布(しょくふ)メーカーとして発展を遂げた日本機材。素材の進化にともない織布からフッ素樹脂部品へ、織布を自動車のクラッチ部品へ提供、さらにフッ素樹脂の加工をきっかけにプラスチック成型の精密機械組立と3つの業務へ拡大し、現在に至る。

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先端技術を支える「フッ素樹脂」

 日本機材が得意とするフッ素樹脂は、現代の最先端技術を陰で支える。耐熱性、耐薬品性に優れ、現在までに発見されている物質の中で最も摩擦係数の小さい物質だ。
 浸食に強く、滑らかという特長を活かし、NikkiFron日本機材では半導体製造装置の部品のほか、東京大学大学院と共同で、次世代ヒト型ロボットの関節部分に、自社のフッ素樹脂活用を研究している。

 レア・プラスチックは、フッ素樹脂の研究から生まれた。「基本は同じだが、生産方法が違う。」これまでの機能的な特長に加え、独自の技術により結晶度を高めて白さを極めた。

レア・プラスチックを世界へ

「新しい素材」で新しい市場

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 グループ全体で年商約100億円。300人の従業員を抱えるNikkiFron日本機材は、長野県のものづくりメーカーとしては、しっかりと地に足のついた中堅企業だ。なぜ、あえてベンチャー企業のような挑戦をしているのか。

 「新しい素材により、新しい製品をつくり、新しい市場を自ら開発する」。先の読めない経済状況の中、中小企業といえども新しいビジネスモデルをつくる必要に迫られている、と春日社長は考える。

「付加価値」を創造するために

 ニッポンのものづくりの生き残る道は「高付加価値」といわれる。量産の部品づくりは、コストを抑えるため、海外へと移転。国内では、いかに付加価値を創出できるかが、サバイバルのカギだ。

「スマイル・カーブ」という言葉をご存じだろうか。
 よこ軸に「ものづくりの流れ」、たて軸に「付加価値」をとってグラフにすると、両側が持ち上がった曲線を描く。人が笑ったときの口のような形なので、「スマイル・カーブ」と呼ばれる。
 ものづくりの中盤である「部品製造」や「機械組立」での差別化は難しく、逆に、ものづくりの川上工程である「企画」や「開発」、最後の「サービス」などでしか付加価値をつけられないという考え方だ。
 素材開発や、コンシューマー(一般消費者)向け商品への展開。NikkiFron日本機材は、スマイル・カーブの中央から、より付加価値の高い両端へとシフトしようとしている。

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ScienceとArtの融合

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 「ScienceとArtの融合という意味で、来年はパリで作品を展示する。」
 長野から東京、そしてパリへ。長野で生まれた新素材レア・プラスチックを、世界に発信する、NikkiFron日本機材の夢は広がる。

 春日社長が好んで使う「Science(科学)とArt(芸術)の融合」。工業製品を造り続けてきた日本機材だが、Science(科学)の分野で差をつけるのは難しい時代。感性の世界であるArt(芸術)と融合することで、世界の消費者の感性訴えるものづくりを進める。

 「長野で培ってきた素材を、世界で知ってもらう。コンセプトを理解してもらう。メイドインジャパン、メイドインナガノをブランド化していきたい。」
 素材にこだわり続けて115年。素材開発型企業NikkiFronの挑戦は続く。

【取材日:2011年3月8日】

企業データ

NikkiFron 株式会社日本機材
長野県長野市穂保409-2 TEL:026-296-9031
http://www.nipponkizai.co.jp/